〈乱歩賞原稿募集企画2〉予選委員・編集部員への緊急アンケート

文字数 3,899文字

ここからは予選委員である評論家・書評家から回答を得た緊急アンケートを掲載。前半の編集部員による座談会はこちらから!
Q 江戸川乱歩賞に求めるのはどんな作品ですか?

・時代の空気を鮮烈に描きながらも、最終的には普遍的なテーマと魅力的な謎を兼ね備えた、太い物語性のあるミステリー。


・公募関係のマニュアル本では、その賞の「傾向」を踏まえての応募が推奨されていますが、そうすると似た傾向の作品が集まり、かえって競争率は上がります。「他の賞に送るつもりだったけど、締切が近かったので江戸川乱歩賞に応募しました!」というような意外性のある作品が応募されてきても面白い。


・これまでの江戸川乱歩賞にない作品であれば、「江戸川乱歩賞初の○○○」という売り出し方も可能です。数年前、乱歩賞に「館物」が応募されて、最終選考まで残ったことがありましたが「館物」「クローズドサークル物」といった、これまでにないタイプの作品を投じることはありだと思います。


・ただひとつ、優れたミステリーであること。ミステリーの定義と解釈は自由であるべき。だが、魅力的な謎と魅力的な解決は必須でしょう。


・最近「乱歩賞ならこういう作風が受けるだろう」と自己規定したような、お行儀のいい作風の応募作が多いという印象です。もちろん、賞の傾向を重視することを否定はしませんが、過去の受賞作のどれとも似ていない作風に挑むくらいの気構えがほしいです。


・魅惑的な謎があり、それが解かれるプロセスに驚きや面白さがある作品。この展開があれば、物語の舞台が遠い未来でも、魔法が存在する異世界でも、戦国時代や江戸時代の日本でも問題なし。ミステリーの要素より、SFやファンタジー、歴史時代小説の要素が強いと思えば、別の賞への投稿を考えてもよいでしょう。

Q 新人賞選考で最も重視することとは?

・オリジナリティにつきます。なにがヒットするかは誰にも──編集者にも書評家にも書店員にも──わかりません。一つだけ確かなことは、今現在流行っている、売れているものの後追いや既視感のある作品を受賞させて、同じような作家をまた一人デビューさせたいわけじゃない、ということです。


・ありきたりですが、読みやすい文章、個性的なキャラクター、斬新なアイデア(作品世界)、納得できるストーリー展開、ラストの意外性が評価ポイントです。


・乱歩賞の場合は(他の賞に比べて)年齢層の高い読者が手に取ると思うので、社会との接点に留意しています。今回の受賞作のような認知症の問題は良い切り口だと思いました。


・応募者に語るべき物語があるかどうか。ミステリーも例外ではなく、巧妙な作りだけでなく、書き手の内側から湧き上がってくる物語の強さが必要。それが作品の核となり、読者を引き付けるのだと思います。


・きちんとした文章になっているか、アイデアに前例はないか、既存作家の作風に似すぎてはいないか、キャラクターがいきいきしているか……等々、チェックポイントは幾つもありますが、もし弱点があっても最終的に修正可能かどうかの見極めは大切にしています。


・自分の考えを、読者に的確かつ分かりやすく伝える文章力です。魅力的なキャラクター、緻密な構成や伏線の処理、ページをめくる手を止めさせないドライブ感など、小説の面白さに直結する要素の多くは文章力なくしては生まれません。

Q 投稿の際に気をつけてほしいこと。

・徹底的に推敲すること。応募規定枚数下限ギリギリまたは、上限ギリギリに合わせる必要はないです。なぜかと言えば前者は、明らかな水増し(不自然かつ無意味な改行や行間空け。だらだらとしてしまりのない会話、例えば喫茶店で「オレ、コーヒー」「あたしも」「じゃあ、ぼくも」みたいな文)で引き延ばした薄味の梗概。後者は、やはり不要な会話や物語の本筋と無関係なエピソードやサブプロットにより肥大化したしまりのない作品になっていることが多い傾向にあるからです。とりわけ会話には、もっと気をつかって欲しい。解決編でありがちなのが、A4一枚の半分を使って、延々と事件の顚末を説明するケースですが、これをやられると一気に物語世界から引き離され、作者の説明を聞かされている気分になってしまいます。


・題名は端的に、作品の内容を表すものをつける必要があります。応募前によくよく考えるべき。


・導入部から読者の興味をつかむ工夫が必要(応募作には、展開が遅いものが多いです)。いきなり死体を転がせ、というわけではなく、例えば、シャーロック・ホームズ物で、ホームズがいきなり依頼人の職業などを言い当てるように、登場人物の個性を際立たせる場面が導入部にあったら良いと思います。


・あるジャンルの作品で応募するならば、そのジャンルの代表作と呼ばれるものは読んでおく必要があります(先行作とのダブりは最悪ですから)。


・投稿前には一度読み返して、自分の作品を客観的に見直した方が良いと思います(他人に読んでもらって、アドバイスをもらうのも良い)。そうすれば誤字脱字、約束事の逸脱(段落の頭は一文字下げる等)に気づいて修正することもできます。その意味では締切までには余裕をもって作品を仕上げた方がよいと思います。


・読みやすい原稿とは、文章だけではなく、フォント、行間、レイアウトの設定にもよります。紙応募の場合には、その点にも配慮した方が良いと思います。


・重たいテーマ(例:沖縄問題)を素材として取り上げた場合、それをぞんざいに取り扱うと、かえって作品に対しての評価は厳しくなります。また、LGBTや性同一性障害を、ミステリーとしての「仕掛け」あるいは、作品の「スパイス」「素材」としてある種、乱暴に使っている作品も多々ありますが、これもデリケートな問題なので、取り扱いは慎重にすべきかと思います。


・作中に特定の職業を登場させる場合、ある程度は取材をして、リアリティをもたせるべき。実作者である最終選考委員の目はごまかせません。


・丁寧な下調べや、徹底した推敲が必要なのは当然。誤謬のない、読み手が余計なストレスを感じない原稿を書くという最低限の心構えを軽視した応募作に当たるとがっかりします。

・各賞ごとに枚数の上限に関する規定があり、それはもちろん守るべきなのですが、「その物語が必要としている枚数」で書いてほしいと思います。規定枚数の上限(例えば乱歩賞の場合なら550枚ぎりぎり)に無理矢理合わせて書いてくる人が多いですが、もちろんその物語にそれだけの枚数が必要ならいいですけれども、大抵は無駄だらけで水増しした印象を受けてしまうのでやめたほうがいいです。枚数通りに書くのはプロになってからで構いません。


・初歩的に思えるかもしれませんが、誤字脱字とファクトチェックです。数作の優劣が拮抗した時、誤字が多い作品より少ない作品、事実誤認が多い作品より少ない作品の方が有利になります。原稿のフォーマットとしては、縦位置にした用紙に縦書き、両面印刷、縦書き原稿の左綴じなどは読み難いので、注意が必要です。

Q 新人賞の選考をやっていて印象的だった出来事は?   応募してくれる方へひとこと。

・長編新人賞A賞で読んだ連作短編集の中の一エピソードに、翌年、短編新人賞B賞で再会したことがあります。再利用としては珍しいパターンだが、いずれにせよ、出来はよくなかったです。


・商業出版されている作品を丸写しした応募作に出会った。無論、即失格。


・梗概に「著者近影」に使うようにとバストショットの写真が添付されていて驚きました。


・予選委員(評論家)と選考委員(作家)では、気にするポイントが違います。実作者である選考委員の方が、同じ書き手として作品の細部に対して、より厳しいと感じます。また、選考委員は書き手が持っている「倫理観」に敏感です。


・個人的な感想ですが、近年高齢者の応募作のレベルが上がってきていると感じます。豊富な読書経験や、比較的自由な執筆時間がその源かもしれません。還暦過ぎの小説家デビューで大成した隆慶一郎のように、人生経験を活かした大型ベテラン新人作家の登場も密かに期待しています。


・ある賞で最終選考に残った五作のうち四作が、下読みを担当した作品だったことがあります。その時の受賞者も自分が下読みをした作品で、残りの三人も現在プロとして活躍されています。予選委員が発言する場は少ないですが、送り出した新人のその後の活躍はとても嬉しいものです。


・予選で強く推した作品が受賞すると嬉しいですし、予選で落とした作品の書き手が後にベストセラー作家になったりすると自分に見る目がなかったのかと自信喪失に陥ることもあります。選考する側にとっても毎回毎回が真剣勝負だと思っています。

まとめると……


1.応募規定はしっかり確認!

 基本的には応募規定通りに原稿を作っていただきたい。


2.作品に向き合おう!

 テーマや謎の熟考、精査が大切。過去に似た作品はないか。展開に破綻はないか。


3.物語にとって適正な原稿枚数を!

 規定枚数の上限を目指す必要はない。その物語に適切な枚数を意識して。


4.小さいミスも見逃さない!

 投稿する前の推敲も大切。読み返すことで新しいアイディアが思いつくかも。


5.一球入魂!

 乱歩賞は年に一回。そこで出せるすべての力を作品に込めて!

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