早大生本読みのオススメ「ちょっと不思議でシュールな隙間時間本」10選

文字数 3,273文字

今、どんな作品を読んだらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、大学生本読みたちが立ち上がった!

京都大学、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学の名門文芸サークルが、週替りで「今読むべき小説10選」を厳選してオススメします。

古今東西の定番から知られざる名作まで、きっと今読みたい本に出会えます。

新年度4分の1経過、新たなルーティンにも慣れてきて、少し顔をあげる余裕がでてき……ても見えるのは曇り空。

乾かない洗濯物、一度出してしまった折り畳み傘の存在感、予測不能な外状況、そんなものが連なる毎日の隙間に、読書はいかが。

本稿では、隙間時間にガッと集中して異世界に飛べる、短篇集やアンソロジーなどを集めてみた。ぽいっと放り込むラムネ菓子のような、リフレッシュになれば幸いである。──いや、ちょっとのつもりが、もうひとつ、もうひとつ、と手が伸びて、振り回されて、うわもうこんな時間、なんてことを、勝手ながら願ってしまったり。

だって、ねえ、本って面白いんですもの。

(執筆:文目/ワセダミステリ・クラブ)

ワセダミステリ・クラブ(わせだみすてり・くらぶ)/早稲田大学

1957年に江戸川乱歩先生を顧問に発足した総合文芸サークル。御年64、多分本人たちの自覚よりもすごい。ミステリはもちろん、SF、ファンタジー、映画、漫画、ゲーム、何を投げても誰かには当たる守備範囲の広さと寄せ鍋的個性を武器に、日夜活動している。

①『この子だれの子』宮部みゆき

作者デビュー作を筆頭に、びっくりしながらほっこりできる4篇を収録。

言うのは易いけどレアですよ。

息をするようにユーモラスな文体の上をひょいひょい渡っていく感覚も楽しい。

日々の隙間というテーマゆえ、改題元の文春文庫『我らが隣人の犯罪』ではなくこちらを挙げさせていただいた。

上手く練られたミステリが読みたい、お疲れ気味でコーンスープ的やさしさがほしい、でもクサい話は嫌だ、そんな欲張りさんに。

②『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』P.G.ウッドハウス

笑いながら脱力と同時に脱帽できる本は、誰が何と言おうと最高である。

同意される方には、是非とも一度ジーヴズに会っていただきたい。

時は20世紀初頭、ロンドンの上流社会。

婚約者からのテスト、友達の片恋騒動、気のいい若主人・バーティがこれでもかと抱え込む厄介ごとを「嘘―⁉︎」とのけぞるような方法で片付けてしまうのが従僕のジーヴズである。

モットーは「機略と手際」。

そうでしょうとも!

執事・メイド・伯爵と聞くとしびれる英国貴族ファンにも、台詞・台詞・Hahaha! なシチュエーション・コメディのあの雰囲気が好きな方にもおすすめ。

③『日本のヤバい女の子』はらだ有彩

しんどいなあ、とふと思う事態にバコーンとぶつかった時、その根本が自分の属性である、という状況は割としゃがみこみたくなるものがある。

性別でも、年齢でも、自分では大好きな何かでも。

そんな気持ちが、実はずっと昔にこの地で生きていた誰かと同じだったかもしれないという視点は、ある意味発明である。

虫愛づる姫君、清姫、かぐや姫。

見たことない角度でハテナをぶつけ、しゅるしゅると私たちを友達にするはらだ氏の筆は、アクロバティックで、爽快で、ハイタッチの後みたいにあったかい。

タイトルで勝手に対象外にされた気にならないでくださいね。

よかったら、一緒にだべりましょ。

④『リスタデール卿の謎』アガサ・クリスティ

ご存知、かの女王による12篇。

探偵なし、テンプレなし、〈普通の〉人々によるミステリ。

借りた家がちょっとおかしい。

え、こんな求人あり? 

乗る車を間違えたらなんか別の人と間違えられてるんだけど、俺どうなっちゃうのー? 

日常が化ける瞬間を、お楽しみあれ。

⑤『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦

『山月記』に『藪の中』、超有名短篇5つを、顎が外れるぶっ飛び設定と腹を痛めるユニーク文体で現代京都のこじらせ大学生たちに転生させた1冊。

作者の手腕に吹っ飛ばされる感覚がまあ小気味良い。

《美しく青きドナウ》に桃色ブリーフですよ。

これ以上に面白い組み合わせをどなたか教えてください。

原作ファンも文学恐怖症も、1ページ開けば虜となる。

⑥『坂木司リクエスト!和菓子のアンソロジー』小川一水ほか

雪山のカフェ、モロッコの砂漠、警視庁、温暖化で熱帯ジャングルと化したいつかの日本。

〈和〉菓子から広がったとは思えない、10者10様のワールドを楽しもう。

再読直後、ふと葛まんじゅうを見つけて買ってしまった。

予想外の弾力に顔中使って食べた。

美味。

読むものと食べるものが調和した幸福感はプライスレスである。

ケーキを食べる前にはおすすめしない、かも。

⑦『中学生までに読んでおきたい日本文学8 こわい話』松田哲夫

高校時代、頼んで図書館に全巻入れてもらって、ポップまで作って推したのに誰にも借りてもらえなかった。

悲しい。

ブラックユーモア、裏、そんなワードにピンときたら、こちらの第8巻を。

太宰治、江戸川乱歩、岡本綺堂に星新一、びびるほど豪華なレジェンドを集めた、〈あの作家のダークサイドお得パック〉(失礼)。

実はお化けはあんまり出てきません。

いるのはあなたの中にも棲んでるかもしれない、人、人、人……。

個人的強烈作品は、半村良『箪笥』。

⑧『不思議を売る男』ジェラルディン・マコックラン

11歳の時の最愛本。当時何回読み返したことか。

エイルサは母と二人暮らし。

家は古道具店だが、気弱すぎる母のせいで家計は常時火の車。

が、ひょんなことから店員となった謎の男・MCCが窮状を救う。

彼は来る客来る客、店の品物にまつわる見事な物語を語ってみせ、すっかり惹き込んでしまうのだ。

文具箱と嘘つき、鏡と虚栄心、ロールトップ・デスクと殺人事件──バラエティ豊かな10話に共通するのは、不思議さ、ちょっぴりのブラックさ、何よりその品物だけは目の前にあるという説得力に裏打ちされた圧倒的魔法。

洗練されたゴシックさを極立てる挿絵や字体も本当に素敵。

「むかしむかし」と分厚い本が開くとわくわくしちゃう人へ。

⑨『怖るべき天才児』リンダ・キルト

主人公のキッズ7名は、別に望んだわけでもないのに各々やや極端な〈特徴〉を持っている。

頭が良すぎる0歳児、普通すぎて帰宅に気づかれない男の子、嘘をつくと口からカエルが出てくる女の子(!)。

彼らは唖然とするほどたくましい。

かと言って「逆境なんのその!」的熱苦しさはない。

どうやってこの〈特徴〉と付き合っていくかシビアに分析し、アイデア勝負でするりするりと生きていく。

確かに「怖」いけど、何だか元気が出てくる1冊。

⑩『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』山田航

私は優等生だったので、中高時代、顔だけはわかった感じで教科書の短歌を眺めていた。

今日の先生のネクタイおもろいなあとか考えながら。

が、これは大好きになってしまった。

自由すぎる。

損得抜きで面白い。

自分の中の何かが崩れる音なんて、そうそう聞けるもんじゃない。

「考えるな、感じろ」が苦手なあなたにも、言葉の濁流に溺れたいあなたにも。

運命の出会いがある、かも。

最後に、お気に入りをひとつ。

おまえらはさっかーしてろわたくしはさっきひろった虫をきたえる[望月裕二郎、206頁]

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