早大生本読みのオススメ「旅にまつわる小説」10選
文字数 3,420文字
突然何もかもが面倒になって、どこか遠い場所まで旅に出たくなったことはありませんか? あるはずです。しかし某ウイルスが猛威を振るう昨今、カレンダーをいくらめくっても、旅行の予定を入れられそうにありません。
しかし本ならどうでしょう。ページの中に広がる非日常を味わうのは、旅に出ることと似ているように思えます。一瞬でも現実を忘れて本の中の世界を想像する時、私たちは確かに旅に出ているのではないでしょうか。
そこで今回は、「旅にまつわる小説」を選びました。これらの本を読んで、少しでも旅行気分になってもらえれば幸いです。しかし旅にはトラブルがつきもの。あくまでも「旅に出たくなる小説」10選ではないことにご注意を。
(執筆:鯨川/ワセダミステリ・クラブ)
ワセダミステリ・クラブ(わせだみすてり・くらぶ)/早稲田大学
ミステリをはじめ各種ジャンルの小説好きが集まる、早稲田大学公認の総合文芸サークル。他大学の方も大歓迎です。
サークル名に関しては表記ゆれが多く、正式名称は「ワセダミステリ・クラブ」となっているもののはっきりしない。公式サイトでは「ワセダミステリクラブ」と表記されている。筆者は少し前まで「ワセダ・ミステリクラブ」だと思っていた。
①『暗い宿』有栖川有栖
早速「旅にはトラブルがつきもの」の典型のようなミステリ短編集。
臨床犯罪学者・火村英生が、様々な宿やホテルを舞台に4つの謎を解き明かす人気シリーズ作品。
自宅ではない場所に寝泊まりするという、ちょっとした非日常の中に漂う犯罪の匂いに思わず身震いしたくなるような展開が魅力的。
廃業した民宿で謎の音を聞く「暗い宿」、犯人当てゲームが主催される「ホテル・ラフレシア」、包帯で顔を隠した客の正体を探る「異形の客」、タイトル通りの「201号室の災厄」を収録。
読後、どの宿に泊まりたいと思うでしょうか?
ある男がホテルの一室で死んだ。
彼はホテルのその部屋に5年以上も住み続けていたという。
謎めいた男の正体、そしてその死の真相とは。
現場となった中之島のホテルに長年宿泊していたという以外、一切が不明な男の正体を調査する異色のミステリ。
次々に変容していく「鍵の掛かった男」の人物像に翻弄されながら楽しめます。
舞台となる中之島の地理が細かく描写されており、読めば中之島に行きたくなること間違いなし。
700ページ余りとかなり長いですが、一人旅に出るように、気楽にゆっくりと読み進めてみてはいかがでしょうか。
③『死神の精度』伊坂幸太郎
死を1週間後に迎える人間の前に現れ、その死の可否を判定する死神。
彼が出会う人間たちの物語。
言わずと知れた伊坂幸太郎の大傑作。
旅要素は、死神が逃走中の殺人犯とドライブする、短編「旅路を死神」にある。徐々に表れてくる切なさと、旅の目的地である奥入瀬渓流の静かな風景が最高にマッチしています。
人とは少しずれた死神の言動(何せ死神ですから)にくすりとしながら、死ぬことなんて考えずに過ごす時間がいとおしくなる短編集です。
④『嘘と正典』小川哲
旅行は旅行でも時間旅行です。
時間遡行マジックを達成したマジシャンを描いた「魔術師」含むSF6編。
何といっても特筆すべきはその構成の上手さ。
どのシーンをどのタイミングで、どのような文章で書けば最も大きい感動が生まれるのか、知っているかのような完璧な構成が素晴らしい。
表題作は特に完成度が高く、ラストですべてがつながった時の驚きはまさに目から鱗、ミステリにも通じる面白さがあります。
⑤『叫びと祈り』梓崎優
広大な砂漠の真ん中、スペインの風車の町、ロシアの寒冷地にある修道院……。
世界中の様々な異端の地で起こる事件を扱ったミステリ短編集です。
短いページ数の中に伏線を散りばめ、最後にはミステリとしての意外な真相の開示と同時に、物語に重くのしかかるテーマを炸裂させる手腕に圧倒されることでしょう。
世界は広く、自分の常識や認識など簡単に崩れ去る。
それでも、と叫んで祈り続けるのがこの物語です。
⑥『麦酒の家の冒険』西澤保彦
旅行帰りに車がガス欠を起こした末、無人の山荘に迷い込んだ大学生4人組。
だがそこは、一台のベッドと、大量のヱビスビールロング缶が入った冷蔵庫の他には何もないという奇妙極まりない山荘だった!
とにかくヘンテコな謎と、それを興味本位で解こうとする大学生たちのゆるさが楽しい1冊。
しかし登場人物たちのユーモアだけでなく、ロジックを駆使して繰り広げられるレベルの高い推理も魅力です。
大量のビールという手がかりから、予想もしていなかった真相が導き出されます。
⑦『夢はトリノをかけめぐる』東野圭吾
国民的作家・東野圭吾による、2006年トリノオリンピックの観戦記。
観戦記ではあるのですが、同時にファンタジー小説でもあるというよく分からない小説です。
しかしこれを読めば、本当にオリンピックの観戦旅行に行ったような気になれることは保証します。
やたらと不便だったりするところが逆に楽しそうな、トリノの現地の様子も細かく描かれています。
季節は真逆ですが、オリンピック観戦の楽しさを思い出させてくれるような作品。
オリンピックイヤーの今年だからこそオススメしたい1冊です。
⑧『流』東山彰良
第153回直木賞受賞作。
台湾人の少年が、祖父の死をきっかけにその真相と自らのルーツを探る青春小説。
あまり旅とは関係ない内容ですが、作者が台湾出身なので、台湾の活気に溢れた空気と芳醇な歴史を味わえる作品です。
中国で起こった国共内戦を取り扱っているが決して堅苦しくはなく、軽快な文章と展開で終始楽しく読み進められます。
主人公の人生が面白おかしく描かれると同時に、物事の核心を突くような名言が綴られる唯一無二のストーリー運びが癖になる。
⑨『花窗玻璃 天使たちの殺意』深水黎一郎
フランスのランス大聖堂で起きた、連続怪死事件の謎を追うミステリ小説。
西洋建築と美術の知識がこれでもかと詰め込まれた荘厳な雰囲気の中、謎解きを楽しめます。
また本書には文体実験とも言えるある仕掛けが施されており(読めばすぐに分かります)、言語学の観点から見ても面白い作品です。
何より仔細に書き込まれたフランスの街並みが目に浮かぶような文章が素晴らしい。
探偵役である神泉時瞬一郎の、博識かつフランクなキャラクターも魅力です。
最後は夏らしくホラーを。
福島県のどこかにある白峠村。
そこで起こる連続児童失踪事件と、人の背中に二つの眼が写り込んだ心霊写真の関係とは?
要所で恐怖をあおる演出も見ものですが、主人公たちが泊まる白峠村の宿やその周辺の描写も上手く、注目してほしいポイントです。
ミステリとしても底抜けに面白く、特に終盤の怒涛の展開には何度読んでも圧倒されるばかり。
不穏な伏線を温存し続け、最後に狂気にも似た驚きを爆発させる手腕が凄まじい。
作者特有の、繊細かつ大胆な文章表現が光る作品でもあります。
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