東大生本読みのオススメ「ひと夏の冒険」を描く小説10選

文字数 3,146文字

今、どんな作品を読んだらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、大学生本読みたちが立ち上がった!

京都大学、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学の名門文芸サークルが、週替りで「今読むべき小説10選」を厳選してオススメします。

古今東西の定番から知られざる名作まで、きっと今読みたい本に出会えます。

夏真っ盛り。暑い休日はクーラーの効いた部屋に引きこもって本を読むに限る。しかしせっかくの夏なのだから、インドア派でも冒険がしたい!

というわけで今回は「ひと夏の冒険」をテーマに十冊の小説を集めた。王道の青春小説だけでなくホラー風味のミステリ、本格SF、はたまた戦記まで。白飛びした夏の日差しと揺れる陽炎を窓外に眺めつつ、せめて心だけは非日常へ飛び出していこう。

(執筆:新月お茶の会)

新月お茶の会(しんげつおちゃのかい)/東京大学

ミステリ・SF・ファンタジーを掲げるエンタメ系総合文芸サークル。この情勢下でも地道に活動を続けて新入生を確保することに成功し、何とかサバイブ。会誌『月猫通り』の最新2171号(特集:ライトノベル新人賞回顧、ミステリ新刊回顧)はDLsiteで電子版販売。noteもやってます。

①『ぼくと、ぼくらの夏樋口有介
高校二年の夏休み。だるくて、でもそれも良いと思えるようなそんな夏の一日に、同級生の女の子が死んだ。そしてぼくは、友達の麻子と調べに乗り出した。ワイズクラックを多用して飄々と日々を過ごすぼくが直面するのは、決して目を背けることのできない、自分たちの若さだった。ハードボイルド調に語られる謎解きミステリの中に、純粋で、それでいて切なくきらびやかな、ぼくらのひと夏の冒険と成長が描かれる屈指の青春ミステリ。
②『ぼくらの七日間戦争宗田理
不朽の名作。一学期の終業式に中学生たちが廃工場を「解放区」として立てこもり、理不尽な大人たちに反旗を翻す物語。「ぼくらシリーズ」の一作目だが、シリーズのどの作品も中学生が悪い大人をこらしめる話になっている。一九八五年の刊行当時とは子供や大人のあり方が変わってしまっているかもしれないけれど、それでも読んで面白いと思えるのは理不尽な大人にムカつく子供の心は変わらないからだ。
③『RDG レッドデータガール はじめてのお使い荻原規子
山の神社に住む内気な箱入り娘・泉水子が、自分の一族の秘密と向き合う現代ファンタジーシリーズの一巻。一族の事情で泉水子の学校に転校してきた意地悪な優等生・深行と、六月の修学旅行で一緒に行動することになるも、姫神と呼ばれる謎の存在が出現して不穏な事件が起こり始める。設定の重厚さはもちろん、ほんわかした泉水子と、泉水子にだけは人当たりの良い仮面を外して冷たい態度を取る深行の関係がどう変化するのか見守ってほしい。
④『まほり高田大介
上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られている。この蛇の目紋は、「まほり」という言葉は、何を意味するのか? 夏休みの帰郷のついでにフィールドワークを始めた主人公は、調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ……。途方もなく膨大な史料を参照する本作は、限りなく現実の学術に近いだろう知的興奮を教えてくれる民俗学ミステリだ。しかし同時に、少年と少女を巡るひと夏の探究と冒険の物語でもある。
⑤『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ飛浩隆
千年前から人間が訪れなくなった仮想リゾートの一区画“夏の区界”でユートピアさながらに暮らすAIたち。しかし、謎の“蜘蛛”が突如襲来し、仮想リゾートを食らい始めるのだった。AIたちの絶望的な戦いが、おそろしく詩的な筆致で描かれる。永遠に続くように思われた夏が途切れる残酷な瞬間を、われわれ読者は「美しい」ものと受け止めることができるのか。この小説が問題作であることに気づいた時、あなたは戦慄するだろう。
⑥『ペンギン・ハイウェイ森見登美彦
小学四年の少年にとって世界は不思議にできている。自主研究ノートを作るような大人びた少年にとってなら尚更そうだ。いじめっこの帝国、歯科医院のお姉さん、そして突然町に現れたペンギン。『ペンギン・ハイウェイ』はおませな少年が送るひと夏の研究、そして恋についての物語である。少年の視界の裏に見え隠れするSFチックな現象も、彼にとっては素敵なお姉さんと同列の謎である。誰にでもあったはずのそんな時代のひと夏……やたらと長くて自由な夏を思い出させてくれる名作だ。
⑦『夏へのトンネル、さよならの出口八目迷
閉塞感と歪みを抱えた田舎の少年少女。彼らを結びつけるのは「ウラシマトンネル」という都市伝説。欲しいものが手に入る代わりに歳を取ってしまうというそのトンネルを巡り、二人の「ひと夏」の物語が始まる——。青空、入道雲、トンネル、セーラー服の少女。こういう要素に惹かれる人なら間違いなく手に取って後悔しないだろう。誰の心にもあるノスタルジックな夏が透明感のある文体で描かれる。瑞々しい王道の青春小説だ。
⑧『イリヤの空、UFOの夏秋山瑞人
浅羽直之は夜のプールで女の子に出会う。その子は翌日、転校生として学校にやってきて「伊里野加奈」と名乗った——。青春ライトノベルが数ある中で『イリヤの空、UFOの夏』がいつまでたっても特別なのは、本作を読めば何度でも“あの頃”を追体験できるからだろう。社会があることを知りつつも、それに向き合わなくても生きていける。そういう箱庭の時代が思春期にはあり、読んでいるとその奇妙に穏やかな感覚がふと甦る。緻密な文章が綴る、夏の思い出をあなたに。
⑨『終戦のローレライ福井晴敏
八月一五日になると、つい読み返してしまう本がある。“ひと夏の冒険”と呼ぶには相応しくないかもしれないが、日本人であるからには向き合わざるをえない、ある夏の記憶。『終戦のローレライ』は、戦争が終局に向かう一九四五年八月、帝国海軍の秘密兵器≪伊五〇七≫に搭乗した少年の物語。冒険、というには生ぬるい歴史上もっとも長い夏を乗り越え、少年は、そしてこの国は、果たして大人へと成長したのだろうか。くり返す混迷の時代に、一度は読みたい「終戦への祈り」。
⑩『雷撃深度一九・五池上司

重巡洋艦≪インディアナポリス≫と潜水艦≪伊五八≫の、太平戦争最後の死闘を描いた潜水艦小説。重巡洋艦は、広島・長崎に投下する原爆を運んだ直後、そして潜水艦は人間魚雷・回天部隊を搭載していた。戦争という名の狂気が極限に達したひと夏の、誰にも知られていない物語。『真夏のオリオン』のタイトルで映画化されており、こちらは終戦から六四年後の夏、ある女性が戦没した祖父の記憶を辿るストーリーになっている。

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