『アイアムマイヒーロー!』/岡本歌織(next door design)
文字数 1,939文字
プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。
今回は『アイアムマイヒーロー!』をご担当していただいた、next door designの岡本歌織さんに筆を執っていただきました。
書き手:岡本歌織(next door design)
さまざまなジャンルのブックデザインを中心に手がけるnext door designという
デザイン事務所に所属しています。
Twittr:nextdoor_d
鯨井あめさんの小説は、昨年に小説現代長編新人賞を受賞した第1作目の『晴れ、時々くらげを呼ぶ』をデザインさせていただきました。
そして今回の2作目『アイアムマイヒーロー!』も続いてご依頼をいただけて嬉しかったです。
ゲラを読んでみると、そういえば小さい頃の自分はなぜだかわからない自信や勇気に満ち溢れていたなと思い出しました。
大人になった今は不安なことだらけで、後悔することも、不甲斐なく思うこともたくさんあるけれど、
それを否定せずに受け入れることの大切さを教えてくれるような、大人が読んでもすごく励まされて、共感できる小説でした。
この本に限らず、若者が主人公の青春小説を装丁させていただく際は、
大人になった自分にその感覚がわかるのか、共感するものがつくれるのだろうかと心配になりながら物語を読むのですが、
読んでみると、懐かしい気持ちと新しい感覚の気づきをもらい、楽しみながらデザインを進めています。
編集のTさんからのご要望は、
今回はイラストを使ったカバーにしたいということと、
前作よりも主人公の年齢がすこし上がっているので、年齢層幅広く手にとってもらえるカバーにしたいということでした。
そこで、物語を読んだイメージから、こんな絵を描いていただいたらどうかなという大雑把な絵コンテと、
それを表現してくれそうなイラストレーターさんを何人かご提案したところ、
瑞々しく魅力的に世界観を描いてもらえそうなあすぱらさんにお願いすることになりました。
あすぱらさんにご依頼するにあたり、メールでのやりとりになるので、なるべく具体的に要望をお伝えした方がいいと思い、
前回の大雑把な絵コンテをもう少し整理したものをお送りしました。
こちらの提案も踏まえつつ、まずはあすぱらさんに読んでいただいたイメージで自由に描いていただいたところ、1番のイラストラフをいただきました。
主人公のアップが魅力的で、影のコントラストも印象的でかっこよくなりそうですが、
編集Tさんから、絵コンテの<プラットホーム案>もぜひ見てみたいというリクエストがあったので、そちらの案も描いていただいたのが2番です。
それぞれの良さがあるので悩みましたが、タイムスリップして過去の自分と向き合うというストーリーが表現されている2番をベースに描き進めていただくことになりました。
・奥の人物の顔を見えないくらいまで暗くする
・奥の電車をもう少し迫ってきている感じで近づけていただく
・手前の人物の持っている傘を木刀にしていただく
など、物語のイメージと合わせて細かい修正をご相談しながら、
表4(カバーの裏側)には無人のホームと、物語のキーとなる犬を登場させていただき、全体の絵が完成しました。
(左と右の絵は別々に描いていただき、私の方でつなげています)
そして、まずは表1(カバーの表面)のデザインラフを何パターンも作り、絞られていくなかで最終定的に完成版のデザインとなりました。
タイトル部分にシルバーの箔押し加工がされているのも見どころなので、ぜひ本屋さんで手にとっていただけたら嬉しいです。
定価:1,485円(本体1,370円) 四六変型 264ページ
(単行本部門 週間 2021/6/29~7/5調べ)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今までの自分をきれいさっぱり捨て去って生まれ変わることができたら、どんなに幸せだろうか――。
誰もが一度は思うこと、その願いへのひとつの答えがここにある。
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ある日突然、全く知らない子どもの姿となって目覚める。目の前には、小学生時代の自分が。
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