『タイタン』/坂野公一(welle design)

文字数 1,993文字

そう-てい【装丁・装釘・装幀】

書物を綴じて表紙などをつけること。また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。また、その意匠。装本。

『広辞苑 第七版』(岩波書店)より

プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。

今回取り上げるのは、シンギュラリティと労働を主題にした注目作『タイタン』(野﨑まど)です!

書き手:welle design 坂野公一

1970年、兵庫県生まれ。神戸芸術工科大学卒業。SONY株式会社、杉浦康平プラスアイズ勤務を経て、2003年に独立し、welle designを設立。ミステリーなど文芸書を中心に多くの実績を誇る。最近の仕事に『今昔百鬼拾遺 月』(京極夏彦)などがある。日本推理作家協会会員。

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AIが進化した世界を描いた近未来SF 『タイタン』。奇才野﨑まどさんの新作ということで、担当編集河北氏から「気合いを入れて装幀を作りたい!」とご依頼が。


作品の世界観、特にAIの姿を具現化することをコンセプトにビジュアルイメージの捜索をはじめます。スタッフの吉田が国内外を問わず数々の絵師やアーティストの作品を収集し、その中から「Adam Martinakis」さんの作品が本作の装画にマッチしていると判断。今回借用した作品では、AIが苦悩しているかのような苦悶の表情を浮かべていて、まるで本作のために作り下ろされたかのようなハマりっぷりでした。

Queen of the moment / 2016  by Adam Arthouros

https://www.martinakis.com

■「プルーフ」の作成

装幀に先んじて、まずは全国の書店員さんに試読していただくための「プルーフ(略装本)」のデザインを作る必要がありました。Adamさんの作品を全面に敷き、タイトルとネームを大胆に配置する「講談社スタイル」で挑んだのですが、どうにもしっくり来ない。とはいえ、まずはこのレイアウトでプルーフを仕上げます。
■初期デザイン「これでいいのか?」
その後、本番の装幀にも同じテンションで挑んだのですが、何か違う気がするしそもそも魅力を感じない装幀にしかならない。ダサいなこれ……。
そこでふと、河北氏の言葉「格調高い感じにしたい」「額縁に入れた感じとか」を思い起こす。河北氏はもともとコミック系のお仕事をしていたこともあり、装幀も派手に仕上げたい傾向が強い。空白恐怖症であることも知っている。でも今回は、それを忘れて一からやり直す。

■格調高いデザインにしたい

そこから、レイアウトを根本的に見直すべく試行錯誤。確かに絵をフレーミングしてタイトルも密やかに配置したレイアウト(B)が本作の装幀として綺麗にハマります。


とはいえあまりにも「ぽくない」佇まいだったので恐る恐るレイアウトを送ってみると、「これや!」と。「タイトル小さいけど大丈夫?」「余白多いけど大丈夫?」みたいな事をしつこく確認した気もします。

さらには、

河:「どこかに箔を使おう」

坂:「いや、そこまでしなくとも大丈夫だとおも……」

河:「いや使う!!」

となったので、効果的な箔の使い方を検討。タイトルと絵の一部に箔を重ね、光の乱反射によって絵を異様に輝かせることができないかとの作戦を取ることに。

■シンプルな帯

帯も河北氏肝煎りのシンプルスタイルに、「今日も働く、人類へ」という一行だけの潔さで勝負。

これは相沢沙呼さんの『medium』でも河北氏が採用したスタイルで、非常に好評だったため本作でも踏襲。この帯の一文にも箔を採用。

■デザインが本を包む
カバーだけではなく表紙や見返しにも印刷を施し、かなり凝った仕上げにしています。本作にはロードムービー的な側面もあるので、読者も登場人物と同じ体験ができるように、ページを進むごとに少しずつ視点が遷移していくような仕掛けを施しました。これは目次や各話の扉で確認することができますので、是非ご覧いただきたいです。
■完成
ブルー基調で清々しいレイアウトの、美しい装幀の本が出来上がりました。著者の野崎さんにも気に入っていただき、SNSでも「装幀が良い」「デザインが良い」との評価を沢山いただくことができました。


SFというジャンル性もあるかと思いますが、シンプルで美しい佇まいの装幀は好まれるのだなとあらためて実感。自分の装幀に対する価値観が補正されるような感触を得ました。

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