『水中翼船炎上中』/名久井直子
文字数 1,441文字
そう-てい【装丁・装釘・装幀】
書物を綴じて表紙などをつけること。
また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。
また、その意匠。装本。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)より
プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。
第2回は、歌集『水中翼船炎上中』(穂村弘)の表紙デザインを担当していただいた名久井直子さんです!
『水中翼船炎上中』のこと
穂村弘さんの前作の歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』に出会ったことが、いまわたしがブックデザインという仕事をしていることのはじまりのはじまりでもあるので、17年ぶりの歌集の担当をさせていただけたことは、本当に感無量な出来事でした。
穂村さんは、とても〈デザイン〉が好きだし、とにかく久しぶりの歌集なので、なにか凝ったところを作りたいなと考え、〈継ぎ表紙〉にしてみたいんです、と提案しました。表紙の表側と、背、裏側の3枚の紙をひとつなぎにして、製本する方法です。
「やってみよう!」ということになったのはよかったのですが、手作業が入るものでもあり、製本日数が増えてしまうことが判明(うっすら想像していたけれど)。
逆算すると、なんとそこから3日で入稿せよとのこと。
どうしよう…と頭を悩ませたのですが、今回の装丁を考えはじめていたときに、前に穂村さんが、「最初の歌集『シンジケート』を作ったときには、装丁とかよくわからなくて、自分が集めていた包み紙とか、いろいろな紙屑をデザイナーの方に見せた」という話をしていたのを覚えていて、どこか今回もそれにつながるようなイメージを持っていたので、すぐに穂村さんに連絡をして、「いますぐ紙屑コレクションを貸して!」とお願いしました。
穂村さんも、わたしも、とても紙屑が好きで、旅先などでもいろんな紙を拾ったり買ったりしています。それを集めたらなにかできるような気がしたのです。
旅行、船、時間、などのイメージに合うものを新しく付け加えたりしながら、構成していきました。
作りながら、「継ぎ表紙にするなら表と裏と絵柄が変えられる!」と思いつき、印刷用紙に何枚面付けできるか教えてもらって(印刷するときには大きな紙にいくつか並べて刷るものなのです)、表3種類、裏3種類できることが判明したので、組み合わせとして、9種類の表紙の組み合わせができました。
背の用紙は表側と裏側で長さを変えて、表側には金箔ででてくる言葉のイメージを。裏側には航海する人が使うロープワークのひとつ、マリンノットの結び方を図案に入れました。
その都度、函から出したときに、旅の気持ちになってもらえたら、とてもうれしいです。
1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。最近の仕事に『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎)、『理由のない場所』(イーユン・リー)『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』(彩瀬まる)などがある。
Twitter:@shiromame