さよならシュレディンガーで「死んだ山田の子守唄」 佳多山大地
文字数 1,770文字
さよならシュレディンガーで「死んだ山田の子守唄」
山田が事故で死んだのさ とってもいい奴だったのに
現場に片目の猫がいて 助けられたと鳴いたのさ
最新の第65回メフィスト賞受賞作、
だが、そんな予測は、嬉しいことに裏切られる。死んだ山田は、二年E組で「あんなに人気者」だった。けれど、人気者、なんてのは、ほとんどその人のことを何も言ってないに等しい。どんな運命のいたずらかラジオパーソナリティのような存在として復活した山田と、リスナーたる35名のクラスメイト(プラス担任教師)との“その後の学校生活”を描きながら、この世の肉体にサヨナラしてようやく山田の
と、ここまで『死んだ山田と教室』のことを、「青春小説」とだけ紹介してきた。だが、そこはやはりメフィスト賞受賞作。
なかでも最後まで残る最大の謎は、山田の死が単純な事故だったかどうか。クラスメイトの一人はその真相を名探偵のごとく見抜いているのだけれど、じつにこの〈謎解き〉がもたらすのはミステリ的なカタルシス以上に、青春小説としての普遍的な輝きにほかならない。なので「青春ミステリ」よりも「青春小説」と呼ぶほうが適当だと判断しているわけだが、とにかくエンターテインメント性に富んで“笑って泣ける”、メフィスト賞受賞作にふさわしい“今までに読んだことがない小説”だと断言しておきたい。
青春、なんて熟語は書くだけで気恥ずかしくなるもの。青春の時はキラキラしているばかりじゃない。忘れたくない楽しい思い出よりも、忘れたいのに忘れられないことと、どうしてだかキレイさっぱり忘れたこと(友人の記憶には残っているらしい……)でできている。そして、ほとんどすべての人が、自分はこの世界の主人公なんかじゃないことを思い知って幕を下ろすのだ。二年E組の主人公だったはずの山田の、青臭く、せつなく、愛すべき青春時代の行方を、あなたもぜひ見届けてほしい。
〈というわけで、これでレビューはお仕舞い。最後にもう一曲。さよならシュレディン
ガーで「匣の猫の失楽」〉