エモすぎるラスト20ページに問答無用で震えるべし! 吉田伸子

文字数 1,948文字

エモすぎるラスト20ページに問答無用で震えるべし!


 ぐはぁぁぁぁぁぁっ……。

 エモすぎでしょ、このラストは。

 と、のっけからラストの話を持ち出して申し訳ない。でもね、本書を読み終えた時、絶対なるからね、ぐはぁぁぁぁぁぁっ、って。

 本書の真ん中にいるのは、超進学男子校である穂木高校二年E組の要のような存在だった山田だ。だった、と過去形なのは、山田がすでに死んでいるからだ。

「山田は二年E組の中心でした、と通夜に参列した生徒は口々に語った」

 これが、本書の最初の1行で、「山田、もう死んでるんかいっ!」と心の中で突っ込みながら読み始めた。クラスの人気者だった山田の突然の死に、落ち込みが激しい生徒たちの気持ちを慮って、担任の花浦は三限の「国語表現」の時間を急遽ホームルームに変更する。生徒たちの気持ちに寄り添おうとする花浦だが、その言葉は生徒たちには届かない。

「俺ぐらい生きてっと、まぁ要は、身近な人間が死ぬなんつーことは、フツーにあるわけだ」と32歳の花浦は言うが、「だからそういうことじゃねぇんだって、死んだのは身近な人間じゃなくて、山田なんだって」と和久津は思うし、「山田だって、自分が死んだせいで二年E組がどんより沈んでたらきっと喜ばないと思うぞ?」と言葉を重ねた花浦に、「いや自分が死んで三日しか経ってないのにみんな和気藹々としてたら絶対嫌だろ、人の気持ちを考えろ」と川上は思う。

「ふざけんなよ。なんで死ぬんだよ。車に轢かれたとか馬鹿じゃねぇの。次カラオケで九十六点出すとか言ってただろ。出せよ。出さずに死ぬなよ。馬鹿だろまじで」

 川上のこの「馬鹿だろまじで」という言葉に込められた憤懣に、山田への想いの深さがわかる。 

 生徒たちの(自分の言葉に対する)反応の薄さに、花浦は「席替え」を提案する。山田の席はクラスの真ん中にあるため、「意識しちゃうだろ」というのが花浦の言い分だった。花浦、空気読めや、今かよ、と思っていると、案の定クラスはし~ん。と、その時、スピーカーから山田の声が。

 すわ、オカルトかと思いきや、そうではなくて、いや、そうなんだけど、えぇい、どっちだよ。でも、ここから物語が始まっていくのだ。山田がE組のスピーカーに憑依したところから。普通なら、即座には飲み込めないこの状況を、ストレスなく読者の胸に落とし込んでしまう作者の筆力は、以後、一瞬たりとも弛むことなくラストまで続く。

 描かれているのは、ザ・お馬鹿、な高校生男子の日常だ。どんだけお馬鹿かといえば、花浦とE組生徒だけの秘密になった山田が〝出てきてもいい〟時の合言葉(もちろんシモがらみ)を参照。ねぇ、君たち、本当に偏差値70の進学校生なの? 

 実体(?)がE組に備え付けられたスピーカーとなった山田だが、その人気は衰えない。E組の生徒たちは、山田のことを、怪異ではなく普通のこととして受け入れる。むしろ、山田ならスピーカーになって蘇ってもしゃぁないか、たとえスピーカーだとしても、山田と話せるの面白ぇし、ぐらいのノリで。

 でも、やっぱりそれは普通なことではなくて、時間が経過していくにつれ、山田とE組の生徒たちとの関係は、ゆっくりと解けていく。超絶人気者だった山田自身のキャラも、E組の生徒以外で山田とかかわりのあった者たちからの言葉によって少しずつ崩れていく。それこそが普通なことであり健全なことなのだが、読んでいると胸の奥がしくりと痛む。それはとりもなおさず山田が死んでいるからだ。解けていく関係を修復することも、言い訳することも、山田にはできない。

 やがて、E組の生徒たちは、元E組の生徒たちになり、元穂木校生となる。彼らがそれぞれの道を歩み始めても、山田の時間は止まったままだ。祭りの後の寂しさのように、お馬鹿男子高校生のくだらない日々の終わりもまた寂しい。

 ただ一人、山田と同じ中学校で、中学時代に山田の一言によって救われた和久津だけが、大学生になっても、社会人になっても(山田と話したいがために、苦心惨憺して穂木校の先生になる)山田のことを忘れずにいる。その和久津と山田ががっつりと向き合う最終話であり、本書のタイトルにもなっている「死んだ山田と教室」が、凄まじいまでにエモい。作者は、この最終話の、あのラスト20ページ弱こそを描きたかったのではないか。そう思ってしまうほどの、超弩級の熱量が、そこにはある。

 作者の金子さんは、間違いなく男子校出身だと私は確信しているのだけど(それもかなり偏差値の高い)、もし共学校出身だとしたら、恐ろしいまでの才能だと思う。や、男子校出身だとしても、やっぱりその才能は凄まじいのだけど。メフィスト賞からまた一人、目が離せない作家が誕生したことを、心から寿ぎたい。

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