第32回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作
文字数 2,451文字
SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。
地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!
毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!
《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》
真田一徹 40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。
浅倉圭吾 28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)
八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。
平間秋介 27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。
「もう一台、あったんだ。マイ
クロバス代わりのバンがな。それに乗せて、女たちの事務所に送ってる」
「ナンバーは?」
真田が訊く。
「いちいち覚えてねえよ」
男は答えた。
「車種と色は?」
「白のハイエース」
「いつ出た?」
「二十分前だ」
男は観念したように答えた。
真田は平間を見上げた。平間は伸縮警棒を振った。後頭部に警棒が食い込む。
男が目を見開いた。真田が手を離すと、ぐらりと上体が傾き、顔から地面に落ちた。
平間と真田はポケットから結束バンドを取り出し、丸坊主男と開襟シャツの男それぞれの手首と足首を拘束した。
男たちを引きずって、道路端の木の下に寝かせた。
「チーフ、なんか変ですね」
平間は男たちを見下ろし、つぶやいた。
「先に手を打たれたようだな」
真田はスマートフォンを取り出した。上村に連絡を入れる。上村はすぐ電話に出た。
「もしもし、真田です。車両の追跡と乗員の保護をお願いしたいんですが。はい。白のハイエースで、内装をマイクロバス仕様にしたものだと思われます。別荘を二十分前に出発して、東京へ向かっているようです。ここにいた男の証言通りであれば、若い女性が四人乗せられています。彼女たちを保護して、上村さんの署で、先に保護した女性と共に預かってもらえると助かります。あと、別荘に尚亮はいないとのことなので、捜索して、同行してもらえますか。はい……こちらは今から残った連中を制圧しますので、また連絡します」
真田は用件を伝え、電話を切った。
「ということだ。踏み込むぞ」
「はい」
平間は首肯し、真田と並んで玄関へ向かった。
6
平間と真田は、ドアの前で左右に分かれた。
「踏み込んだら、おまえは左、俺は右に行く。敵しかいない。存分に叩け」
「了解」
平間はにやりとした。
真田がうなずいた。平間はうなずき返し、ドアを引き開けた。
広い靴脱ぎ場の奥にエントランスが広がっている。そのエントランスに接するように、左右にドアが一つずつ、正面にドアが二つあった。
天井は高く、階段はない。空間を贅沢に使った平屋だった。
真田は左と右のドアを指さした。平間は首を縦に振ると同時に左ドアへ走った。真田も右ドアに走り、同時に蹴破って、中へ飛び込む。
平間が入った部屋は寝室だった。ベッドが二台あり、右のベッドに男が寝ていた。
「なんだ、てめえ!」
男が驚いて、上体を起こす。
平間は持っていた警棒を水平に振り、問答無用に顔面を殴りつけた。警棒が鼻頭のあたりにめり込んだ。
男は弾かれ、ベッドに倒れた。勢いでマットが波のように揺れる。
平間は警棒の柄の先を男の鳩尾に叩き込んだ。男はウッと呻きを漏らし、気を失った。
結束バンドで手足を縛り、持ち物をまさぐる。男はスマートフォンしか持っていなかった。平間はそのスマホをポシェットに入れた。
「一人完了」
エントランスに戻る。
「さて、今度はどの部屋にぶっこむかな」
平間はエントランス向かいにある二つのドアを見据えた。
7
真田が入った部屋はキッチン付きの食堂だった。六人程度が座れるテーブルがあり、そこに二人の男がいた。
突然の物音に驚き、一人はハンバーグを刺したフォークを握ったまま固まり、もう一人は椅子ごと倒れていた。
「浜岡か!」
ハンバーグを食べていた耳にピアスをしている男が声を張った。
「ん? どういうことだ?」
真田が男を見やる。
と、倒れた金髪メッシュの男が立ち上がった。
「そいつは浜岡じゃねえ!」
メッシュ男は言うなり、自分が食べていたチャーハンの皿を投げつけてきた。
真田は顔の前に右手を立てた。裏拳で皿を弾く。米粒と砕けた皿の破片が飛散した。
「食い物を粗末にするな」
真田はテーブルに飛び乗った。右手をついたときに、散らばった米粒を拾う。
メッシュ男が逃げようとする。真田はテーブルから飛び、男の前に立った。
男が真田に右フックを放ってきた。真田はダッキングして拳をかわし、男の懐に踏み入った。
上体を起こすと、真田の顔が、男の鼻先にまで近づいていた。
真田は左手で男の髪の毛をつかみ、頭突きを入れた。男が顔を歪めた。鼻から血が垂れる。
真田は男の頬を左手の指でつかみ、口を開けさせた。そこに拾った米粒をねじ込む。
「ほら、しっかり食えよ」
真田は左のショートアッパーを突き上げた。
鼻から下の男の顔がくしゃっと潰れた。男はそのまま両膝から真田の足元にすとんと落ちた。真田の足にもたれかかる。
矢月 秀作(やづき・しゅうさく)
1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。