第31回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作

文字数 2,290文字

累計100万部超の大人気シリーズ「もぐら」でおなじみの矢月秀作さんがtreeで「SATーlight(警視庁特殊班)」を好評連載中!

SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。

地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!


毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!

《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》


真田一徹  40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。


浅倉圭吾  28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)


八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。


平間秋介  27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。

     5


 迷彩服に身を包んだ真田と平間は、定岡の別荘近くまで車で乗り付け、停めた。

 携帯している武器は、警棒と自動拳銃のみ。上村から預かった資料に目を通した真田は、別荘の持ち主である定岡実の次男、尚亮とその仲間たちが小銃や日本刀のような長剣は所持していないと判断した。であれば、警棒と拳銃で事足りる。

 二人は車から降り、別荘沿いの坂を上っていった。周囲は暗く、二人の姿は闇に溶け込んでいる。

 別荘の外観が見えてきた。林の奥に白い壁が浮かび上がる。

 坂道から別荘への道は、林間を縫うように造られている。土を固めただけの道で、大型の車が一台通れるほどの幅だ。

 真田と平間は別荘への道手前で林の中に入った。別荘を目視しながら、足音を忍ばせ、建物へと近づいていく。

 先を行っていた平間が腰を落とした。背後に右手を突き出し、手のひらを下に振る。

 真田は中腰になり、平間の脇に近づいた。片膝をついて、木の幹に姿を隠しつつ、別荘の玄関前を見やる。

 SUVが二台停まっている。その車の前に二人の男が立っていた。タバコを吸いながら、何やら話している。

「どうします?」

 平間が真田に小声で話しかけた。

「俺が彼らの前から歩いていく。俺に近づいてきたところを背後から狙え」

「了解」

 平間が首肯する。

 真田は平間から離れると、林を坂道の方へ進み、途中で別荘への道へと出た。そこからゆっくりと別荘に向けて歩いていく。

 真田の姿を認めた男たちが会話をやめ、真田を睨みつけた。

 真田は男たちを見返しながら、歩を進めた。

「おい、勝手に入ってくるんじゃねえ」

 派手な虎柄の黄色い開襟シャツを着た男が真田に声をかける。

 しかし、真田は前進する。

「聞こえてんのか? ここは私有地だ。出ていけ」

 男は真田を睨んだ。

 真田はそれでも前に進み、男たちの五メートルほど前で立ち止まった。

「おいおい、サバゲーでもやってんのか?」

 もう一人の丸坊主の男が、真田の格好を見て言った。

「おっさん、何のつもりか知らねえが、今のうちに出ていけよ。めんどくせえから」

 丸坊主の男が促す。

 が、真田は動かない。

「しょうがねえな」

 開襟シャツの男は舌打ちし、咥えていたタバコを足元に投げつけた。真田に近づいてくる。丸坊主の男もサポートするように開襟シャツの男の少し後ろについてきた。

 真田は男たちに顔を向けていた。目の端に林から出てきた平間の影を捉える。

 開襟シャツの男が真田の前に立った。

「出ていけと言ってんのがわからねえのか?」

 真田の胸ぐらをつかもうと右手を伸ばす。

 瞬間、真田は右足を下から振り、男の股間を蹴り上げた。男は目を剥いた。前屈みになり、股間を押さえて両膝を落とす。

「なんだ、てめえ!」

 丸坊主の男がタバコのフィルターを噛みしめ、真田に近づこうとした。

 が、まもなく、男は目を見開き、動かなくなった。つんのめり、ゆっくりとうつぶせに倒れていく。

 開襟シャツの男の脇に、丸坊主の男が突っ伏した。

 開襟シャツの男は肩越しに背後を見た。迷彩服の男がもう一人。男は伸縮警棒を握っている。

 開襟シャツの男の目が引きつった。

 真田は男の前にしゃがみ、片膝をついた。男の髪の毛をつかむ。

「中に、おまえらの仲間は何人いる?」

 頭を揺らす。男の顔が歪む。

「七人だ」

「武器は持っているか?」

 真田が訊く。男は答えない。真田は男の頬をひっぱたいた。

「武器は用意しているのか?」

 また、頬を叩く。

「どうなんだ?」

 訊くたびに、頬を張る。

「刃物しかねえよ!」

 男はたまらず答えた。

「日本刀か?」

「ナイフだよ。刀なんか持ったこともねえ」

 男は言った。

「尚亮もいるんだな?」

「尚亮さんはいねえよ。俺たちが借りてるだけだ」

 男が言う。真田は強く髪をつかんだ。男の顔がさらに歪んだ。

「本当だって。尚亮さんはいねえ」

「ハニラバのメンバーは?」

「もう送り届けてる。ここにはいねえ」

 真田が頭を揺さぶる。

「マジだ! 女たちはもう帰した!」

 男が悲鳴に似た声を上げた。

「車があるじゃないか」

 平間が後ろから言う。

矢月 秀作(やづき・しゅうさく)

1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。

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