第30回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作

文字数 2,327文字

累計100万部超の大人気シリーズ「もぐら」でおなじみの矢月秀作さんがtreeで「SATーlight(警視庁特殊班)」を好評連載中!

SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。

地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!


毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!

《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》


真田一徹  40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。


浅倉圭吾  28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)


八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。


平間秋介  27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。

     4


 ドアが激しくノックされた。

 みのりと谷は作業をしていた手を止め、互いの顔を見合わせた後、ドアに目を向けた。

「誰ですかね……」

 谷が小声で言う。

「浜岡かしら」

「いや……」

 谷はドアを睨んだ。

 ノックの音は続く。声をかけてこない。みのりにも谷にも、相手が警察なのか、商売関係者なのか、判断がつかない。

「出ましょうか?」

 谷が腰を浮かせる。

「待って。ドアを閉めたまま、作業を続けて。私がタイミング計って出てみるから」

 みのりは谷を止めた。

 谷は首肯し、ドアを閉めた。

 みのりは物音を立てないように、広げていたノートパソコンの中にある売春関係の隠しファイルを手早く削除していく。

 ノックは二分ほどしつこく続き、ぴたりと止んだ。

 みのりは手を止めた。ドアの方を見て、音を聞こうと顔を傾けた。

 その時、いきなりドアが蹴り破られた。蝶番が外れ、ドアが倒れてきた。

 みのりは短い悲鳴を放ち、ソファーに飛び乗って膝を抱えた。

 胸板の厚い筋骨隆々の男が飛び込んできた。

「誰!」

 みのりは睨みつけた。

 後ろから女性が二人入ってきた。短髪の女性が前に出てきた。

「広崎みのりさんですね」

 女性は言い、身分証を出した。

「警視庁特殊班の八木沢です」

 広げてみせる。

「特殊班? 何よ、それ。聞いたことないわ」

「新設部署なので」

「本物なの?」

 みのりが抵抗を見せると、芽衣の隣にいた女性が出てきて、身分証を開いた。

「新宿中央署刑事部刑事二課の星野です。これで信じていただけると思いますが」

 星野が言うと、男も身分証を出した。

「同じく新宿中央署刑事二課の滝口だ」

 みのりの前に突き出す。

 みのりは三人の身分証に囲まれ、黙るしかなかった。

 芽衣が口を開く。

「うちのメンバーがハニラバのアイリさんを保護しました。そのアイリさんから、今晩、あなたたちが送った仕事先で暴行を受けたとの証言を得ました。また、別のメンバーがフラップの代表、金田さんが、こちらで売春の斡旋をしている事実を話してくれました。なので、フラップの関係者の方々にご同行願いたく」

「それでドアを破壊したというわけ? ずいぶん乱暴ね。逮捕状はあるの?」

「私たち特殊班は、事実確認ができれば、逮捕状を待たずに職務を遂行できる特権を持っています。このまま通常通り、力をもって拘束、制圧してもかまいませんが、どうします?」

「脅すわけ?」

「提案しているだけです。こちらとしても、穏便に事を運べるのであれば、それに越したことはないので」

 芽衣はみのりを見下ろし、その顔を閉まったドアの方に向けた。

「谷さんも出てきてください」

 声をかける。

 ドアがゆっくりと開いた。芽衣の顔を見て、一瞬驚いた表情を覗かせたが、すぐ目を伏せ、小さく笑った。

「そうか。変わった子だとは思っていたが」

 谷はみのりの脇に来た。

「知ってるの?」

 みのりが谷を見上げる。

「最近、うちの店に顔を出すようになった、歌手志望の畑中かおりさん。本当の名前は違うんでしょうが」

 谷は観念したように微笑んだまま芽衣を見やった。

「八木沢と言います」

「そうですか。経歴も動機もすべて嘘だったということですね」

「そういうことになります」

 芽衣が言うと、谷はみのりに目を向けた。

「みのりさん。私のところにまで内偵が入っているということは、ほぼ全容をつかまれていることにほかならない。私とここの接点は知られていませんからね。観念した方がいい」

 谷の言葉に、みのりは唇を噛んだ。

「ご同行願えますか?」

「ええ」

 谷は笑みを向けた。みのりも仕方なく立ち上がる。

 星野と滝口が、それぞれ谷とみのりの脇についた。芽衣が四人の少し前に出て、歩き始める。

 谷が後ろから話しかけてきた。

「ギターを練習しているというのも嘘だったんですか?」

「最初は設定だったんですが、谷さんの話を聞いていて楽しそうだったので、プライベートで練習してますよ。相変わらず、Fには苦戦していますが」

「それはよかった」

 谷は終始穏やかだった。

 その落ち着き具合がなんとなく気にかかる。

 とりあえず、勾留中に話を引き出すしかないな。芽衣は背後に谷を感じつつ、前を歩いた。

矢月 秀作(やづき・しゅうさく)

1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。

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