第34回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作

文字数 2,198文字

累計100万部超の大人気シリーズ「もぐら」でおなじみの矢月秀作さんがtreeで「SATーlight(警視庁特殊班)」を好評連載中!

SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。

地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!


毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!

《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》


真田一徹  40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。


浅倉圭吾  28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)


八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。


平間秋介  27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。

     9


 エントランスで銃声が響く少し前──。

 真田はピアス男の後ろに回り込み、首に銃口を当てた。暴発しないよう、セーフティーロックをかける。カチッと音がする。

 男には、それが引き金に手をかけたように聞こえたらしい。

 男は泡を食ったようにいそいそとしゃがみ、両膝をついた。

「名前は?」

 銃口で後頭部をつつく。

「磯部と言います」

 男の声は震えていた。

「磯部か。いくつだ?」

「二十五です」

「そうか。では、磯部君に質問。なぜ、俺を見て、浜岡と言った?」

「それは……」

 磯部は言い淀んだ。

 真田は銃口を強く押しつけた。磯部の身体が固まった。

「連絡があったんです。浜岡とその仲間がここに乗り込んでくるから、半殺しにしろと」

「誰からだ?」

「……谷さんです」

「谷はじめだな?」

 真田の問いに、磯部はうなずいた。

「谷はなぜ、そんな指示をした?」

「それは俺にもわかりません。けど、俺らは言われたことをやるだけなんで」

「おまえたちと谷は、なぜつながっている? おまえらは組織か?」

「それは……」

 また磯部の口が重くなる。

 真田が再び、銃口を押し当てた時だった。

 部屋の外で銃声が轟いた。二発、三発。すぐに銃声は収まり、しんとなる。

 何者かが飛び込んできた。真田はとっさにセーフティーロックを指で弾き、銃口を向けた。

 平間だった。真田を見て、左手のひらを上げる。

「チーフ、大丈夫ですか?」

「こっちは問題ない。銃声はどうした?」

「どうもこうもないですよ。物音に気づいて、エントランス奥の部屋から敵が出てきたんですがね。その一人が銃を持ってました。発砲してきたので、応戦したまでです。あのガキども、嘘つきやがって」

 外の方を睨む。

「エントランスには何人いた?」

「四人です。俺が入った部屋には一人。ここは?」

「二人なので、計七人。全員、倒したな」

 真田は部屋に目を向けた。と、足元に跪いていた磯部が倒れていた。気絶して横たわったまま、失禁している。

「どうしたんですか?」

 平間は磯部に目を向けた。

「ちょっとこいつを使ってしゃべらせていたんだがな」

 真田は銃を小さく振って、ホルダーに収めた。

「外の銃声を聞いて、肝を冷やしたようだ」

「だらしないヤツですね」

 平間は苦笑し、自分も銃をしまった。

「何を訊いていたんですか?」

「こいつら、谷からここへ浜岡が来るとの連絡を受けて、待ち伏せしていたようだ」

「それにしては、のんびりしていましたね」

「まだ浜岡が来るとは思っていなかったんだろう。そこに俺たちが飛び込んできたもので、あわてたようだな」

「タイミング、ばっちりですね。しかし、谷はいつ、俺たちの動きに気づいたんでしょうか」

「おまえがアイリを助け出したところで予期はしていたのだろう。広崎みのりに金田から連絡を入れさせたのはまずかったな。おそらくその電話で警察が動いていることを確信し、八木沢に踏み込ませるまでの間に手を打ったのだろう」

 真田が自戒する。

「ということは、フラップの売春斡旋の首謀者は浜岡ではなく、広崎みのりと谷はじめということですか?」

「今の状況を素直に精査すると、そういう図式になるんだがな……」

「何か気になりますか?」

「谷や広崎が、銃を用意できるとは思えん。そっちはまた別のベクトルだ」

「そこは浜岡が手を貸したんじゃないですか? 浜岡は黒いつながりも聞こえてくる人物ではあります」

「うーん」

 真田は腕組みをした。

「ともかく、倒した連中は拘束して、一つの部屋へ閉じ込めておけ」

「署に引っ張らないんですか?」

「それはすぐにでもできる。ここで、浜岡を待とう。自分が狙われたことを知れば、ヤツから何か引き出せるかもしれない」

「それはいいですね。ここに入ってくれば、ライチとキノピも無傷で保護できます」

「急いで片づけよう」

 真田が言う。

 二人は同時に動き始めた。

矢月 秀作(やづき・しゅうさく)

1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。

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