第33回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作
文字数 2,411文字
SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。
地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!
毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!
《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》
真田一徹 40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。
浅倉圭吾 28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)
八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。
平間秋介 27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。
真田が退くと、男は前方に突っ伏した。
ピアスの男がミートナイフを手に、真田に迫った。
真田は腰に手を当てた。伸縮警棒を入れたホルダーのストッパーを外す。
男が右手に握ったミートナイフを突き出してきた。
真田は右足を男の体の左外側に大きく踏み出し、上体を大きく倒すと同時に伸縮警棒を取り出し、下から振り上げた。
伸びた警棒が男の右手首を弾き上げた。鋭い衝撃に男の手からミートナイフが離れ、回転しながら天井に刺さった。
男は弾き上げられた右手で拳を握った。そのまま真田に振り下ろそうとする。
真田は左脚を右脚に引き寄せ、スッと上体を起こした。体を回転させ、男の背後を取り、警棒の先を後ろ首に押し当てた。
男の動きがぴたりと止まる。
「両手を頭に置いて座れ」
命令する。しかし、男は動こうとしない。
「では、こっちに持ち変えよう」
真田は別のホルダーから拳銃を抜き出した。
警棒を手首にぶら下げ、銃のスライドを擦らす。ガシャッと重い音がした。
男が肩越しに背後を見やる。とたん、顔が引きつった。
8
平間がドアから少し離れたところに立っていると、真田の入った部屋から怒声とけたたましい音が聞こえてきた。
「おーおー、チーフも派手にやってるな」
平間は真田の入った部屋に目を向けようとした。
と、正面二つのドアが同時に開いた。
それぞれの部屋から二人ずつ、四人の男が出てきた。その中に、傷の手当てをしたように絆創膏を貼っている者がいた。
そいつは、平間を認めた途端、指を差して叫んだ。
「こいつだ! 女を連れて行ったのは!」
その声で四人の男は色めき立った。
「あー、おまえ、誰かと思ったら、俺がアイリちゃんを助けた時に伸したヤツか。なら、俺の強さは知ってるよな」
平間はにやりとし、先に男たちに突っ込んだ。
傷の手当てをしていた男は急いで部屋へ駆け戻った。
しかし、残った三人が平間を取り囲んだ。
二人の男がポケットから振り出しナイフを取り、柄を振って、刃を飛び出させた。
平間は彼らが構える間もなく、自分から間合いを詰めた。向かって右側にいた男の右手首に鋭く警棒の先を振り下ろした。
いきなり攻められ、男は何もできず、手からナイフを落とした。
その左隣にいた男がナイフを振り上げ、迫ってきた。
平間は警棒の先を喉笛に突き入れた。男は奇妙な呻きを漏らし、ナイフを足元に落とし、喉元を押さえた。
平間はその男の首筋を警棒で打った。男は一瞬、目を見開いた。が、そのまますとんとその場に落ち、横倒しになった。頸動脈を打たれ、脳が酸欠状態になり、ブラックアウトしたようだ。
手首を打った男がしゃがんでナイフを拾おうとする。平間は駆け寄り、ナイフを蹴った。宙に浮き上がったナイフは壁に刺さった。
「残念でした」
平間は男の頭部に警棒を振り下ろした。
骨を打つ鈍い音がし、男の額から血が流れた。上体が前に倒れてくる。平間は爪先を鳩尾に叩き込んだ。
男は息を詰めて胸を押さえ、突っ伏した。
平間は警棒を縮めて、ホルダーにしまった。残った一人の男を見やる。
「おまえ、武器持ってないだろ? 素手で相手してやる。かかってこい」
少し半身に構え、左手の甲を向けて、くいくいと人差し指を動かす。
男は歯噛みし、平間を睨みつけた。
「ほら、早く来いよ」
挑発する。
男は拳を固めて、迫ってきた。大ぶりの左右のフックを振り回す。
平間はステップを切りながら、すいすいと避けた。
「おまえ、そんな大ぶりじゃ当たらねえよ。フックってのはな」
平間は足を止めた。相手の左フックが頬に迫る。少し背を反らして、紙一重でかわす。
「こう打つんだ」
平間は腰をひねって、相手の左肩の外側から被せるようにショートフックを打ち込んだ。
スピードと体重が乗った右拳が、相手の左頬から顎先を打ち抜く。男の首が九十度に傾いた。
男は大きく振った自分の腕の重みで半回転して浮き上がり、背中から落ちた。息を詰めた男はそのまま意識を失い、ひくひくと痙攣していた。
「格闘は力任せじゃダメなんだよ」
平間が男を見下ろしていると、ドアが開いた。
残った一人が部屋から出てきた。
「うわああああ!」
大声で叫び、両腕を持ち上げた。
その手には、銃が握られていた。
「なんだと! ちょっと待て!」
平間は銃のホルダーに手をかけた。
その時、男が発砲した。
矢月 秀作(やづき・しゅうさく)
1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。