テレ朝Pが語る裏話! 「読書芸人」が教えてくれたこと

文字数 5,170文字

2012年の第1回放送より、出版界・日本中の本好きを中心に大反響となった『アメトーーク!』「読書芸人」は、昨年ですでに計5回を数える人気企画となった!

そこで、第1回から企画を手掛け、見守り続けたテレビ朝日エグゼクティブプロデューサー加地倫三さんに、これまでの歴史を振り返っていただきました!


構成:西澤千央

初出:小説現代2022年12月号

「読書芸人」が教えてくれたこと

本当は本が苦手だった


 子供のときからテレビっ子で、ほとんど本を読まずにここまで生きてきてしまいました。だから今でもナレーションを考えるときに良い単語が出て来ず、Googleで「言い換え」「類語」ばっかり検索しています。


 もともと母親が小説を書く人で、『三田文學』や地方紙に書いていました。母の友人にも小説家が多く、芥川賞を取るような方も身近にいて、家には本が溢れていましたが、「読書=お勉強」のような気がしてテレビに没頭していました。


 そんな僕が、なぜ「読書芸人」という企画をやる判断をしたのか。


 まず、そもそも知らないジャンルを企画にするのが好きですし、好きすぎるものの企画より客観的に見られるのでいい、というのがありました。そういう意味では番組内の蛍原(徹)さんと同じスタンスです。そんななかで、当時ピースの又吉(直樹)はじめ読書好きな芸人たちが出てきたので、「そんな好きなら1回やってみるか」くらいの、本当に軽いノリでやってしまったんです。


 キャスティングについては、オードリーの若林(正恭)とオアシズの光浦(靖子)さんの読書好きはなんとなく耳にしていましたが、あとは他の企画同様に事務所や芸人たちに聞いて集めました。僕の仲のいい芸人で読書好きもいたんですけど「『アメトーーク!』に出て語れるほどではないです」って遠慮する人も結構いましたね。


 DVDで第1回の冒頭を見返すと、又吉がスタジオ入りをするときに「不安だな」とこぼしているのが残っています。実際、収録現場は『アメトーーク!』始まって以来一、二を争うぐらいウケませんでした。本当にスタジオ中が静かで……。そりゃそうですよね、お客さんは笑いに来てるのに、芸人たちは真面目に小説の話をしているわけですから。収録後、若林なんかは、「楽しかった」「時間が経つのが早かったです」と本当に楽しそうでしたけど、僕からしたら、空調の音が聞こえるぐらい「しーん」とした空気で、いたたまれなくて相当苦しかったです。編集であっちこっち順番をどんどん入れ替えて、それで何とか形にはしても、面白いという自信はなかったんです。でも、これが案外、視聴率が良くて……。やっぱり世間には本好きな人が多いんだなって実感しました。出版業界の方からの反響も大きくて、放送後、数えきれないくらい、「帯に書きました」とか「増刷しました」とか、出版社からお礼の手紙が来ました。


 後から振り返ると、「読書芸人」の反響の裏には、「本を読みたいけど何を買えばいいかわからない」という人がたくさんいたということがあったと思います。町から身近な本屋がなくなり、足が遠のくようになると、なおさら何を買っていいかわからなくなってくる。そんな時に、出演してくれた芸人さんのプレゼン能力が購買意欲を搔き立てたんだと思います。

思わぬ反響を受けて


 ただその後、すぐ第2弾をやったほうがいいんだろうなと思いながらも、初回収録時のトラウマもあって、なかなか踏み切れませんでした。そんななか、「ロケだったらいいか!」と思いついたんです。ロケだとお客さんのシーンとした空気を気にしなくていいですから。それで、思う存分語ってもらえるロケのスタイルに変えて、3年ぶりに「読書芸人」をやることにしました。ちょうど又吉が『火花』を出して、話題になったのも大きかったですね。


 第3回からはメイプル超合金のカズレーザーにも入ってもらい、新たな流れができました。それまでは、どうしても純文学系が好きな芸人さんが多かったんです。読書って文学だけじゃなくて、新書だったり参考書だったり、全部ひっくるめて「読書」だから、ちょっと幅が狭いなっていうのは感じていました。実際「もうちょっと違うジャンルのことも扱ってほしい」という声も届いていましたから。そういう点で、カズは図鑑や子供向けの本なんかも好きで。本っていうものの捉え方がちょっと他のメンバーとは違っていて、結果的に番組も幅が広がってよかったなって思います。


 その後、又吉は「先生」になっちゃって、光浦さんもカナダ行っちゃったし、「じゃあ、リーダーをそのままカズにして、次の世代の子たちを新たに探そう」、そうやって、2021年に第5回を収録しました。ティモンディの前田(裕太)やラランドのニシダが本好きというのは意外だったので、そういう子に積極的に入ってもらうようにしました。扱う小説のジャンルも変わってきて、ゾフィーの上田(航平)や前田がディープなSFを紹介したり、お互いに読んでいる本で共感しあってるのは面白かったですね。若手中心で、しかも好きな「本」についてということで、みんなめっちゃ緊張してガッチガチだったんですが(苦笑)。

本とお笑いのビミョウな関係


 実際、こういう企画は、ややもすると本の紹介に終始してしまい、お笑いとして成り立たせるのはすごく難しい。成立させるためには、まず知らない側の人間に入ってもらう。あと、僕らがよく言うのは、「漫談にならないようにする」。要するに、個人の話にしないでちゃんと会話にしてあげるってことです。笑いはやり取りの中で生まれることが多いので、全体の空気の中で会話をさせるっていうことが一番大事ですかね。


 第1回からあった「進行無視でみんな黙って本を読み出す」も、現場のノリで生まれました。新しい子たちはまだ余裕はなかったですけど、「行きすぎて」みたいな、好きであることを超越すると、笑いになりやすい。そういうのは、本当に『アメトーーク!』が教えてくれたなと思います。


 たとえば、「好きでやっちゃうことありますか」だと笑える話は出づらいけど、「好きすぎてやっちゃうことありますか」っていう質問にすると、芸人も1個スイッチが入るみたいですね。ちょっとマニアックなとことか、いい意味で変態みたいな部分ってみんな持っているわけで、そこにスイッチがある。多少気持ち悪くてもそこに対象物への愛があるから、そんなに酷くは思われない。仮に「うわ、それちょっと気持ち悪いわ」ってツッコミが入っても、視聴者の中には「いやそれは私もやってるけどな」、もしくは「やってないけど気持ちはわかる」って思う人が絶対何割かはいるんです。だから他の「大好き芸人」でもやっぱり大事なところで、アンケートや打ち合わせでも、その質問を入れるようにしています。


 ただ一方で、「読書芸人」のプレゼンは熱を伝えるだけではだめで、芸人さんはみんな「変なこと言って作家さんに迷惑かけたらどうしよう」「自分のプレゼンが本当に正しいのか」などと相当気を遣いながら喋っています。しかも、ネタバレせずに面白く説明するのはかなり難しい、かと言ってぼんやり言っても伝わらない。そこのさじ加減がやっぱり難しい。プロの話術が試されると思います。だからこそ、ロケが終わって編集する際もバランスよく仕上げるように気をつけていますね。


「読書芸人」がその後の『アメトーーク!』の流れを変えた部分もあります。

 スタジオのお客さんは笑いに来ているにもかかわらず、どうしても本について熱く語ることがメインになる「読書芸人」は笑う場所が少ないわけですが、テレビって必ずしも笑おうと思って見ているわけでもないですよね。好奇心だったり、雑学的なところ、興味や情報収集のために見ているところもある。「読書芸人」をやってから、笑いの時間がなくても「興味」の方向性を伸ばせばいいという考え方が増えました。スタジオで多少静寂が長くても耐えられるようになりましたね(笑)。

記憶に残る小説たち


 振り返ると、これまで実に多くの本を取り上げさせていただきました。雨上がり決死隊の2人も読書芸人に感化されてその場で本を買っていますけど、僕も買うようになりました。

 特に印象に残っているのは、西加奈子さんの『漁港の肉子ちゃん』です。明石家さんまさんが映画化されましたが、宮迫(博之)君が声優で参加したのには、なにか不思議な縁を感じましたね。


 あとは平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』も面白かったです。僕、一字一句逃さず読まないと気が済まないのと、情景を思い浮かべながら読むんで、すごく時間がかかるんです。『マチネの終わりに』なんて、そんな風に読んでたら1年くらいかかりました(笑)。続きを読み始めるときは、前回読んだところまでの振り返りに長い時間を取らなきゃいけないから、時々振り返りだけで終わっちゃうときもあるくらいで……。


 でも、毎回あそこで薦められる本は面白いですね。そもそも僕、ほとんど本読まないくせに、本屋に行くのは好きなんですよ。この前も近所の本屋にふらっと入って、読むのに時間かかるくせに、2冊買っちゃって。この時は池井戸潤さんの『ハヤブサ消防団』と、劇団ひとりの『浅草ルンタッタ』を買いました。週末に久々に休みがあるので、読もうかなと思っています。遅いんで20~30ページくらいしか進まないでしょうけど(笑)。


 そうそう、Aマッソの加納が自分の本を持ってきてくれて読んだんですが、うますぎてびっくりしましたね。「自分が書いてて、ここがうまいとか、得意だなとか思うとこある?」って聞いたら「セリフですかね」って言っていました。コントを書くときにセリフを書くから、そこは得意かもしれないです、と。確かに芸人さんはそこのやり取りがうまいから面白い小説が書けるのかなって思いました。今後芸人さんが書く本と小説家の先生が書く本では、セリフの入れ方や量などが違うのかな、など分析しながら読みたくなりますね。そんなことやってたらさらに読むスピードが遅くなりそうですが……。

「読書芸人」が教えてくれたこと


「読書芸人」がこれだけ反響をいただいたうえで改めて思うのは、『アメトーーク!』はきっかけに過ぎないってことです。どのジャンルも1回は通っていたり、通ろうとしたことがある人って多いじゃないですか。きっと「読書」はそういう層がとりわけ多い。最近本読まなくなったなって人でも、昔は好きで読んでいたりするわけでしょう。


 ナレーションでも毎回入れている「本ぐらい読まなきゃなぁ」って、あれはまさに自分のことを言ってるんですけど、みんな思ってるんじゃないかな。


 高校野球もそうで、『アメトーーク!』でやってから圧倒的に甲子園の観客が増えたそうですが、高校野球って絶対みんな通っているじゃないですか。今のコアファンは少なくても、通ったことがある人数、もしくは通ろうとした人数が多いものって反響が大きいんですよ。キャンプもそうです。キャンプまでいかなくても、バーベキューしたいなとか、外でご飯食べたいなとか、昔、誰かと行って楽しかったなとか、ちょっとだけ触れたことがある人が多いから、今、コロナ禍であることも相まって、流行ってるんでしょう。この前「キャンプ芸人」の3回目をやったんですけど、やっぱり反響は大きかった。それは『アメトーーク!』がどうこうというより、元々そういう人たちが多いジャンルだったということです。常日頃からそういったジャンルを見つけるためにアンテナめぐらせてるというよりは、自分がそこにふと入ったときに「そういえば」と思いつく感じですね。過去の「読書芸人」もたまたま本屋に行ってそういう気持ちになったのかもしれないし、それこそ親友たちと飯食って本の話でめっちゃ盛り上がって、「加地また(「読書芸人」)やんないの?」って言われたりとか、意外とそんな感じなんです(笑)。


 本当は今年も「読書芸人」をやりたかったんですが、ラインナップが埋まっていて今のところ予定はたっていません。ただ、ここ数回は秋ごろにやる傾向がありましたが、別に秋に限らずやってもいいかなと思い始めてもいます。この前も、加納が収録来たときに「『読書(芸人)』また行ける?」って聞いたら、「全然やりたいです」って言ってくれました。

 また近々やれるといいなと思っています。

加地倫三(かぢ・りんぞう)

1969年生まれ。神奈川県出身。ʼ92年にテレビ朝日に入社し、スポーツ局に配属。ʼ96年に異動し、『ナイナイナ』『リングの魂』を担当。現在は『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』等の総合演出・エグゼクティブプロデューサーを務める。

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