「群像」2022年5月号

文字数 1,596文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2022年5月号

 今号は、3本の新連載がスタートします。


〈私たちは、ただ自由に暮らしたかった。―明治・大正・昭和の日本で、そんな生を追い求めた「女性」たちは、たしかにいた。女性を歴史に残すこと、歴史の中の「生活」が軽視されがちなこの社会でふたり暮らしを実践した人たちの、消えそうな足跡をたどってみたい。〉


 伊藤春奈さんによる「ふたり暮らしの〈女性〉史」は、「大きな歴史」に覆い隠されてきた〈女性〉たちの物語を掘り起こしていきます。


 わたしたちはここにいる―側近たちとともに映ったゼレンスキー・ウクライナ大統領の動画を見た方は多いでしょう。大山顕さん「撮るあなたを撮るわたしを」は、変貌する写真や映像を通して「出来事」への思考を深めていきます。


〈問いが生まれて、消えていく。問いはこわれやすい。気まぐれにやってきて、わたしたちに何かをささやき、とらえきれないままにどこかへ行ってしまう。だからわたしはあなたの問いの手をつかんで、適切に保存せねば、と思う。〉


 4月号で「はらう」を書いていただいた永井玲衣さんの哲学エッセイ「世界の適切な保存」は、すぐに消えてしまうような「何か」を書き綴っていきます。


 3本それぞれ、これからどうぞお楽しみください。


『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した石沢麻依さんの受賞後第1作「月の三相」360枚を一挙掲載。文芸文庫新刊『亡命者』(高橋たか子著)解説として収録される批評「「越境者」から「亡命者」へ至る個の軌跡」とあわせて、小特集を組みました。


◎創作は川上弘美さん「ロマン派」、柴崎友香さん「帰れない探偵 探す人たちの国の物語」、髙橋陽子さん「川むこうの丘」、町田康さん「日本武尊」の4本。


◎〈この頃、わたしの周囲で人が死ぬのだ。〉―「愛について」の伊藤比呂美さんの思索、必読です。


◎本誌読み切りを単行本化した、高瀬隼子さん『おいしいごはんが食べられますように』。長瀬海さん、ひらりささんによるW書評を。


◎増村十七さんによるレポ漫画「100分de名言を求めて」が帰ってきました。今月は本誌連載「スマートな悪」が単行本化したばかりの、戸谷洋志さんの「ハイデガー」。


◎青山七恵さん「はぐれんぼう」、斎藤幸平さん「マルクスる思考」が最終回を迎えました。


◎コラボ連載「SEEDS」は、下地ローレンス吉孝さん「インターセクショナリティから見た現代日本」。


(多くの方もそうかと思いますが)ウクライナの情況は絶望的な気持ちにさせる。とくにマリウポリの惨状はおよそ現実とは思えない。自分は「何もしていない/できない」のだろうか、という気持ちに囚われてしまう。


〈遅くなってもいい、後からだって全然いいから、気が付いたらすぐ祝えばいい。〉〈祝福の速度を上げろ。日々を祝福するためにわたしは働いている。〉


それでも、くどうれいんさんの今号の連載を読み、さらに3本の新連載を読んで雑誌を校了していくうちに、すこし変わってくる。報道を見て、考える。働いて、生きる。何でもない日や、何でもないことを、祝福する。それはどこかでつながっているように思える。〈世界のバランスを気にすること〉。誰もが自分の方法を模索している。がんばりましょう。今号もよろしくお願いいたします。 (T)


〇4月号掲載、早助よう子さん「アパートメントに口あらば」の参考文献が抜けておりました。単行本化の際に記載いたします。


〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。


〇竹田ダニエル氏、保阪正康氏、村田喜代子氏の連載は休載いたします。

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