「群像」2020年7月号

文字数 1,121文字

今年も、「群像」から新しい小説が生まれました。


〈この作品は差別の教科書的な小説やマイノリティ観光大使的な小説になることを免れ、マイノリティであっても嫌なことばかりではなく非マイノリティと同様に平穏な日常生活もある様子を丁寧に描きつつ、マイノリティ同士でもどちらかが加害者になってしまう(加害者に加担してしまう)瞬間を厳しく捉えた、たいへん頼もしい小説に育っている〉


第63回群像新人文学賞・優秀作となった湯浅真尋さん「四月の岸辺」は、おそらく史上初ではないかと思われる「書面選考」という「例外状況」ではありましたが、この松浦理英子さんの選評の言葉をはじめとして、選考委員のみなさんに最後まで言葉を尽くしていただいた末のデビュー作です。ぜひ読んでいただき感想をお寄せください。そして、次回の応募もお待ちしております。

巻頭創作は小説では本誌初登場となる、今村夏子さん「とんこつQ&A」。このタイトルから始まって読む側の「常識」をぐらぐらと揺るがせていく今村ワールドにどっぷり浸かってください。


湯浅さんのデビュー作もあり、創作で初が続きますが、「膨張」は昨年中原中也賞を受賞した、井戸川射子さんの初小説。詩人ならではの言葉の質感にご注目を。


中国文学者の井波律子さんが亡くなられました。親交のあった三浦雅士さんに追悼文をお願いしています。井波さんのご冥福をお祈りいたします。

総特集は「論」の遠近法―批評特集です。1月号から「時代の危機」に対峙する書き手の皆さんが集まる「場」をつくるために、「文」×「論」総合雑誌化を合い言葉にしてきました。この7月号を「論」のひとつめのピークにするべく、13の論考と連載もふくめて当初から編集部で構想準備をしてきましたが、新型コロナウイルスの流行で世界がこのような状況になるとは誰も予想していませんでした。


「コロナ禍」で何が変わった/変わるのか。ひとつ言えるのは、「言葉」の力がより剝きだしになったことではないでしょうか。


(フェイク)や言葉の暴力(クソリプ)、その場しのぎ・反射瞬間的な言葉で命が失われる現実に直面しました。分断による孤立(裏返しの匿名による集団化)はますます進むように見えます。


しかし、だからこそ、この「危機の時代」に言葉の力=人文知を扱う文芸誌にも余地はあるはず。小説・批評、表現の方法は異なりますが、「本物」は立ち止まって考え尽くされた言葉の中にしかないと思います。


まずは多様なジャンルの批評がそろったこの特集が「考えるきっかけ」となれば幸いです。


(「群像」編集長・戸井武史)

「群像」2020年7月号発売中
6月5日(金)発売の「群像」2020年7月号編集後記より抜粋。

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