「群像」2023年3月号

文字数 1,573文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2023年3月号

 本誌に掲載された、井戸川射子さん「この世の喜びよ」が第168回芥川賞を受賞しました。井戸川さん、おめでとうございます。(早くも!)受賞第一作となる創作「野鳥園」と、新作詩「それは永遠でない、もっとすごい」で小特集を組みました。また、惜しくも受賞とはなりませんでしたが、グレゴリー・ケズナジャットさん「開墾地」も単行本化されましたので、未読の方はこの機会にあわせてご堪能ください。


〈育児がけっこうしんどかった。子どもたちを私が見守っているように、私も誰かに見守られていたらいいのにと思っていた〉。「この世の喜びよ」の全体を包む「あなた」という二人称について、井戸川さんは受賞会見でこう語っていました。今号を校了中、この作品を雑誌で担当して産休に入った部員Sから「本当に頭に来たので共有します」とDMが。「子育てのための産休・育休がなぜ取りにくいのか」というハッシュタグがついた、「産休・育休中のリスキリング」に対しての岸田首相の国会答弁に関連したツイートでした。岸田総理、産休・育休中は、暇だったり、何もしていないわけじゃないんだよ! 小説を政治的なことにつなげたいわけではないですが、本作を読んで感じてほしいと思いました。


 今号巻頭は、羽田圭介さんの新連載創作「タブー・トラック」。現代の〝タブー〟に切りこむ渾身作。あなたは何を感じるでしょうか。


◎『ケアの倫理とエンパワメント』『ケアする惑星』と、本誌で探究を続けてきた小川公代さんの新たな評論「翔ぶ女たち」も連載開始。野上弥生子とその作品を手がかりに、「女たち」が辿る道を照らしだします。


◎創作が三本。川上弘美さん「山羊は、いなかった」、くどうれいんさん「湯気」。畠山丑雄さんの中篇「改元」を一挙掲載。


◎批評は、小峰ひずみさんの群像新人評論賞受賞第一作「大阪(弁)の反逆―お笑いとポピュリズム」と、高原到さんの「「半人間」たちの復讐―巨人たちは屍の街を進撃するか?」です。


◎稲泉連さんの私的ノンフィクション「サーカスの子」。加筆した単行本は3月の刊行を予定しています。


◎対談は、本誌で「庭の話」を連載中の宇野常寛さんの新刊『砂漠と異人たち』をめぐる、國分功一郎さんとの「目的とゲームの「外部」へ」。藤野可織さん『青木きららのちょっとした冒険』刊行を記念した、とあるアラ子さんとの「ルッキズムが溶け込んだ「まあまあ最悪なこの世界」を考える」の二本立てです。


◎今月の「論点」は、岩川ありささん「養生する言葉」、河南瑠莉さん「空っぽの「正義」の彼方で、どのような「連帯」が可能なのか」。


◎元書店員で、いまは未来読書研究所代表をつとめる田口幹人さんに「これからの読者のために」と題した「article」を書いていただきました。


◎コラボ連載「SEEDS」は、松田智裕さん「読むことのリアリティ」。


 磯崎新さん、吉田喜重さん、渡辺京二さんが逝去されました。それぞれ、田中純さん、舩橋淳さん、池澤夏樹さん、田尻久子さんに追悼文をお願いしています。謹んでお悔やみを申し上げます。

 今号もどうぞよろしくお願いいたします。 (T)



○本誌で連載・単行本化された、尾崎真理子さん『大江健三郎の「義」』が、第74回読売文学賞(評論・伝記賞)を受賞しました。尾崎さん、おめでとうございます。


〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。


〇石戸諭氏、宇野常寛氏、川名潤氏、竹田ダニエル氏の連載、創作合評は休載いたします。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色