「群像」2022年11月号

文字数 1,522文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2022年11月号

〈なにかものを考えているつもりだとしても、多くの場合すでに自分のなかにできあがっている認知パターンの自動運転に身を任せているだけだからです。知的な探究を徹底するには、そうした自動運転を一部でも解除する必要があります。とはいえ、それはきわめて難しい。認知の自動運転は、我が身を守る鎧としても機能しているからです。これがなければ、われわれはまともに生活を送ることさえできなくなるはずです。いわゆる「バカの壁」(©養老孟司)の問題です。〉


 専門書ではなく「門前書」―〈門前の小僧による門前の小僧のための哲学門前書〉―吉川浩満さん『哲学の門前』(紀伊國屋書店)が滅法面白かったです。吉川さんは、この一節に続けて、壁を壊すには他者の助けが必要で、やさしい助言などでは足りず、「不法侵入のショック」が必要だった、と書いています。「文」×「論」と銘打ち誌面リニューアルを進めてきましたが、掲載してきた「文」も「論」の文章も、まさに「不法侵入のショック」の連続だったと思います。今月も連載がふたつ、上出遼平さん「歩山録」と、鎌田裕樹さん「野良の暦」が新たに始まります。元テレビマンと元書店員、奇しくも「専門」を離れた後のおふたりの思考を、門前の小僧として追っていきたいと思います。


 収穫の秋、まさに今号は創作のハーベストです。紗倉まなさん、須賀ケイさん、「群像」では初の創作となるグレゴリー・ケズナジャットさんの中篇一挙3本掲載。石沢麻依さん、片岡義男さん、くどうれいんさん、津村記久子さん、長島有里枝さんによる短篇も色とりどり。どうぞお楽しみください。


◎柴崎友香さんの連作「帰れない探偵」は、「太陽と砂の街で」。


◎小川公代さんに亡くなったエリザベス女王について、温又柔さんには没後三〇年となった李良枝について、すこし長めのエッセイをいただきました。


◎「論点」は三本。枇谷玲子さん「私たちは今、自由なの?―ジェンダー平等先進国の実態と課題」、羽佐田瑶子さん「『ベイビー・ブローカー』×『PLAN 75』からあぶり出される、「自己責任」の顚末」、三木那由他さん「「トランスジェンダー問題」を語り直す」。いずれも「いま」について考える必読の文章です。


◎松浦寿輝さん、沼野充義さん、田中純さんによる鼎談「二〇世紀の思想・文学・芸術」が再開。今回は「エイティーズ―『空白』の時代」がテーマです。


◎神田伯山さん「講談放浪記」が最終回を迎えました。


◎コラボ連載「SEEDS」は、梅田孝太さん「自殺してはいけない―ショーペンハウアーとともに考える」。



 枇谷さんの「論点」を読んで、ジェンダー平等先進国の「理想と現実」を見ながら日本の現状について考えます。「変わる」だけではなく、「変え続ける」ことの重要性。そして、「私たち」の目の前の現実として、毎月育児と雑誌編集を両立しながら「群像」をパワフルに変えてきた仲間であるSが、今月号をもって二度目の産休に入ります。1年後に戻ってくるまで、残ったメンバーでこれからもこの「場」を変え続けていきますが、行ってらっしゃい、まずは心からのエールを送ります。今号もどうぞよろしくお願いいたします。 (T)



〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。


〇大澤真幸氏、大山顕氏、堀江敏幸氏、三木那由他氏の連載、創作合評は休載いたします。

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