「群像」2021年4月号

文字数 1,690文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年4月号より

〈東日本大震災から9年、来年は10年。こうした「年月の区切り」は、それぞれが胸に持つ「〈災〉の記憶」を甦らせもするが、決着/風化/忘却も加速させていく。だが、何も終わっていない。私たちはずっと「震災後の世界」を生きていくのだと思う。だから、「年」をはずし、ただの数字にして、考えるきっかけにする。来年は10、再来年は11、12……文芸誌でできることを続けていきたい〉―昨年4月号の編集後記で書いたように、リニューアル以降、今号の「震災後の世界10」をひとつの目標にしてきました。しかし、校了に向けて続々と集まってくる原稿を皆で読んでいて、このためにお願いをした文章はもちろんですが、毎月の連載も、偶然この号にいただいた原稿も、すべて「震災後の世界」の「いま」が書かれている、と気づいたのです。当たり前のことのようで、ハッとしました。「この月」の文章をひとつひとつ読んでいただくために、特集としてまとめることはせず、表紙にだけ「震災後の世界10」と刻むことにしました。川名潤さんからは表紙ヴィジュアルに、キュンチョメさんのアート作品の提案を受け、今号にふさわしい顔になったのではないかと思います。目次裏のキュンチョメさんの文章もぜひ。思えば、雑誌というのは毎月タイムカプセルを作っているのかもしれません。埋めませんのでまずは読んでいただけたらと思います。


「国家・ゼロエフ・浄土」、古川日出男さんの歩みはここで一度完結します。単行本『ゼロエフ』でも、その歩みと思考をトレースしてみてください。


◎石戸諭さん連作も最終回。古川さんの歩みも、石戸さんの見つめる線も、「さき」に続いていくはずです。


◎創作は小林エリカさんによる中篇と、くどうれいんさんの初小説。どちらも書くことや記録すること、記憶に対して向き合った力作だと思います。


◎「ベイルート961時間(及びそれに伴う321皿の料理)」は、フランスで刊行される著書を関口涼子さんご自身が抄訳。「悲劇以前」の記録―「後」だけでなく「前」についても考えていくこと。


◎戸谷洋志さんの新連載「スマートな悪」は、「技術の哲学」を参照しながら、「スマートさ」によってもたらされる悪について考察していきます。


◎連作は創作が松浦理英子さんと町屋良平さん、批評が小田原のどかさんと安藤礼二さん。続きものではありますが、毎回の読み切りとしても楽しんでいただけます。


◎松浦寿輝さん、沼野充義さん、田中純さんによる好評徹底討議、今回は「「映像」の運命」。映画=精神分析=ファシズムという二〇世紀特有のトリプティックについて語られます。


◎映像つながりでたまたまではありますが、今号の論点では、上出遼平さんと丸山俊一さんがそれぞれ「テレビメディア」について論じています。井上弘貴さん(PC)、品田知美さん(コロナ禍と女性)、丸山美佳さん(アンラーン)と合わせ豪華五本立て。


◎映像つながりはもうひとつ、増村十七さんに、NHK Eテレの人気番組「100分de名著」の収録現場の「レポ漫画」を。前号から「見えない道標」がスタートした若松英輔さんが講師の回です(1月の講師は連載陣の斎藤幸平さんでしたね)。「群像」に漫画が載るのは、初めて、かもしれません(編集部調べ)。


◎「DIG」では島田英明さんが、『神道の逆襲』を読み解きます。


◎『大江健三郎全小説全解説』の著者でもある尾崎真理子さんに、東大に寄託されることになった大江さんの「自筆原稿」について、「article」をお願いしています。


 次号は「旅」の小特集を企図しています。少しでも新型コロナ感染が収まっていくことを祈ります。


(「群像」編集長・戸井武史)

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