「群像」2022年10月号

文字数 1,488文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2022年10月号

〈三木 弱さって、めちゃくちゃ広い言葉ですよね。何なんだろう。

 永井 弱いって、嫌なことですか。〉


 特集は「「弱さ」の哲学」です。


 創作が片瀬チヲルさん「カプチーノ・コースト」一挙掲載。本誌連載中のおふたり、永井玲衣さんと三木那由他さんによる対談「「弱さ」のこと……」。「「くぐり抜け」の哲学」は、稲垣諭さんが「他者と向き合う」新連載。工藤あゆみさんによる、不思議なパワーをもらえるユーモラスな絵と10の言葉。水上文さんの高瀬隼子作品批評。論考が江間有沙さん、栗田隆子さん、中村英代さん―それぞれのみなさんが「弱さ」について様々な角度から迫っています。


 昨年8月号で「ケア」の小特集をした後、次に思い浮かべたのが「弱さ」という言葉です。でもこの「弱さ」は、想像以上に「厄介」なものでした。たとえば今号目次のリード、「弱さ」が多出しています。当然のことながら、特集内の文中にも頻出する。「弱さ」を口にしたり、もしくは文字にする……その刹那、なにかが飛び去っていくような感覚がないでしょうか。永井さんと三木さんの対談では、そんな「弱さ」のとらえどころのなさについて率直に触れられています。ためらい、戸惑い、言いよどむこと……それを「弱さ」と言いきれるかどうかは分かりませんが、立ち止まって思考するための「きっかけ」のひとつになるかもしれません。


 かつて存在した完璧な文章を取り戻すために、人類はどこに向かうべきなのか。巻頭新連載は、上田岳弘さん「多頭獣の話」。


◎創作が二本、長島有里枝さん「チャイとミルク」と宮内悠介さん「国歌を作った男」。


◎新連載「文化の脱走兵」は、『夕暮れに夜明けの歌を』の著者でロシア文学者の奈倉有里さんによるエッセイです。


◎先日亡くなられた中井久夫さんと三宅一生さん。鷲田清一さんに特別寄稿をお願いしました。


◎「戦争の匂いがかぐわしかったことなど一度もない」は、『ベイルート961時間(とそれに伴う321皿の料理)』が好評な関口涼子さんによる特別エッセイ。


◎7月にGACCOHで行われた小峰ひずみさんと戸谷洋志さんの対談を誌上再録―「結ぶ技術、対話の可能性をめぐって」。


◎「論点」では尾久守侑さんに「偽者」について、ariticleでは奥野斐さんに、先の参院選における「多様性」の振り返りについて、それぞれ書いていただきました。


◎石戸諭さん「「後」の思考」が連載再開。野球日本代表の栗山英樹監督に話を聞いています。


◎松村圭一郎さん「旋回する人類学」と、若松英輔さん「見えない道標」が今号で完結。単行本は弊社から刊行予定です。


「もし小説が好きでなかったら……小説を読むことで救われてきました。自分の書いた小説で救いたいとは思わないけれど、人に読まれたいとは思う」


 8月26日、芥川賞の贈呈式で高瀬隼子さんの受賞スピーチを聞いていて、「読まれたい」ことへの欲望というのは、何物にも代えがたいと感じました。私たちも、毎月「読んでほしい」と強く思って雑誌を編んでいます。今号もどうぞよろしくお願いいたします。  (T)



〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。


〇大澤真幸氏、保阪正康氏、村田喜代子氏、鷲田清一氏の連載、SEEDS、創作合評は休載いたします。

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