「群像」2021年10月号

文字数 1,770文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年10月号より

 今号から3ヵ月連続で「創刊75周年記念号」と銘打ちお届けいたします。第1弾は、高橋源一郎さんの100枚読み切り創作「オオカミの」からスタートします。デビュー作『さようなら、ギャングたち』が「群像」に掲載されてから40年。「いま」とも「さき」とも読むことのできる、固有名詞のなくなった世界が描かれます。


◎『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』に続く多和田葉子さんの連作長篇「太陽諸島」が連載開始。文庫化もされる『地球に~』の池澤夏樹さんによる解説と、野崎歓さんが多和田さんの絵本『オオカミ県』を論じた批評で小特集を組みました。のっけからオオカミがあふれる記念号に。


◎交換様式から生じる観念的な「力」の正体をもとめて―「探究」の途次にある柄谷行人さんの特別エッセイ「霊と反復」を。


◎蓮實重彥さん「窮することで見えてくるもの」は、大江健三郎『水死』論。文中におかれた「窮境」という一語を通して作品を新たな地平へとひらく文芸批評です。


◎創作は、瀬戸内寂聴さん、町田康さん、諏訪哲史さん、上田岳弘さん、藤野可織さんによる五つの物語。記念号3号にわたって多くの短篇が生み出される予定です。


◎批評は、安藤礼二さんの連作「空海」と、本誌で連載が続く大澤真幸さんのライフワーク「〈世界史〉の哲学」の「近代篇」を吉川浩満さんが読みとく「後ろ向きの予言書」。


◎東辻賢治郎さんが「地図」を片手に私(たち)の存在を問い直す新連載「地図とその分身たち」が始まりました。


◎「論点」では源河亨、原武史、矢野利裕各氏に、それぞれ「感情」「コロナと鉄道」「小山田圭吾」について論じていただきました。


◎3月に刊行したラファエル・リオジエ『男性性の探究』(伊達聖伸訳)をめぐって、著者のラファエル・リオジエさん、三牧聖子さん、清田隆之さんで7月26日に行われたオンライン討論会の模様を「女性蔑視はどうつくられるか」として掲載します。時間が許せばもっと多くの、深い議論が展開されたはずですが、その端緒は大いに感じられると思います。司会は小川公代さんです。


◎コラボ連載「DIG」で井上文則さんがとりあげた現代新書は『ローマはなぜ滅んだか』。


◎橋本倫史さんの短期集中連載「水納島再訪」は最終回。来年単行本化される予定です。


◎松浦寿輝さん、沼野充義さん、田中純さんの徹底討議「二〇世紀」鼎談、今回のテーマは「批評の革新」。政治と文学の革命が同時に起こった1917年から話は拡がっていきます。

 

 坂上弘さんが逝去されました。三浦雅士さんに追悼文をお願いしています。校了中には群像新人賞出身者でもある高橋三千綱さんの訃報も。謹んでお悔やみ申し上げます。


 この75周年記念号①の発売にあわせて、ジュンク堂書店池袋本店にてフェアを開催していただくことになりました(担当の齊藤さん、市川さんはじめ、関係者のみなさまありがとうございます)。困難な時期ではありますが、細心の注意を払って進めていただいています。誌面だけでなく、書店店頭でも「群像」という「場の熱」を感じていただければ幸いです。寄られたさいにはぜひご覧になってみてください。

 

 創刊50周年のときに、1946年から1996年までの「「群像」総目次」というのをつくっており、それを合間に眺めています。時代によって雑誌も大きく変化していて、とくに「文学の鬼」といわれた大久保房男編集長時代の誌面はバラエティに富み「雑」そのものでおもしろい。現編集部は「文」×「論」をテーマにリニューアルを進めてきましたが、かたちは違えど、「これまで何度も試みてきたんだな」と再確認しました。雑誌は時代時代で書き手のみなさんとともに生まれ変わるもの―76年目の編集部も、「雑」を極めていきます。まずは今号から、どうぞよろしくお願いいたします。 (T)


〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。

〇保阪正康氏、鷲田清一氏の連載は休載いたします。


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