『ぼくは犬や』/ペク・ヒナ

文字数 1,715文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!

大好評連載の第32回目は、ペク・ヒナさん『ぼくは犬や』です!

『あめだま』という絵本があります。ドンドンという名前の少年が主人公の、少し不思議で優しい物語。彼の愛犬グスリもいい味わい。
 そんなコンビの前日譚が、ペク・ヒナさん作『ぼくは犬や』(ブロンズ新社)です。

 表紙にはお座りした耳垂れ犬さん、グスリ。優しい笑顔でこちらを見ています。我が家の犬と散歩しているとき、すれ違ったことがあるかのように思えてしまう親しみやすく懐かしい風貌。
 驚くべきことにこの子は粘土で作成された人形なのです。あまりにリアルで、遠目だと本物にしか見えません。

「ひとは ぼくを グスリと よぶんや。」

 そんな文章で始まる物語の舞台は韓国です。なのに雑種犬のグスリは関西弁。これが実にいいのです。グスリのひとり語りが身近に感じられ、何年も前から彼を知っているような気持ちに。翻訳を担当された長谷川義史さんのセンスに脱帽の一言です。

 そしてページをめくるたび、さまざまな表情のグスリ、家族である人間たち(息子のドンドン、おとうちゃん、おばあちゃん)、ご町内の犬たちが次々に登場します。
 犬マニアの国樹をして「こんな子、いるいる!」と、興奮が止まらなくなるほどの精巧さ。しかもそのレベルを沢山ですから。
 更にセットも撮影もご自身によるもの。可愛い家具や、街角も全部だなんて。ペク・ヒナさんは超人としか思えません。

 韓国語版と見比べてみたいのは文字ですね。描き文字の配置まで計算されており、漫画の手法を思わせます。
 緩急の付けかたが絶妙で、静かなシーンはとても静かだし、賑やかなシーンは目が覚めるような生命力を感じます。人形の表情と相まって、無音のはずの絵本からグスリの元気な声が聴こえてくるよう。

 見ているだけで十分楽しいのに、物語のテーマが素晴らしいことにも感動します。国樹はラストのページで泣いてしまいました。悲しみでなく、幸せな涙です。
 私に子どもがいたら、絶対読ませたいと思いました。グスリ目線で彼らの日常を楽しんでいるうち、自然に犬と人間の深い絆を知ることが出来るのです。優れている絵本は子どもはもちろん、大人の心も打ちます。

 こんなにも才能溢れる作品を生み出してくださったことに感謝しかありません。
 冒頭で紹介した『あめだま』とあわせて読まれることをおすすめいたします。サイダーを飲んだ後のように爽やかな読後感で、灼熱の夏を乗り切ってください。
イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


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