「犬のお告げ」/G・K・チェスタトン

文字数 1,695文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第24回目は、G・K・チェスタトンの「犬のお告げ」『ブラウン神父の不信』収録です!

 シャーロック・ホームズという名探偵を知らぬ人はいないでしょう。ではブラウン神父は? 
 ホームズと同じくイギリスの探偵(というか本業はカトリック司祭)ですが、ドラマで観て知っていても、本で読んでいるかたはさほど多くない印象です。

 とはいえ推理小説マニアの人気は高く、かの有名な推理作家エラリー・クイーンに「世界三大探偵」と言わしめたのがブラウン神父。初めて読んだとき「こんな推理のプロセスがあるのか」と驚いたものです。

 そんなブラウン神父が活躍するシリーズ作品の中に、犬が鍵となっている短編があるのでご紹介します。G・K・チェスタトン作『ブラウン神父の不信』(創元推理文庫)に収録されている「犬のお告げ」です。

 たった1人で東屋(あずまや)にいた老齢のドルース大佐が、何者かに短剣で刺し殺されるという事件が勃発。密室状態の東屋からは凶器さえ見つかりませんでした。

 その謎めいた事件をブラウン神父に相談しに来たのは、ファインズという青年です。彼はこの事件が起きたときドルース邸にいた1人なのでした。
 大佐の飼っていた犬は自分の主人が殺された瞬間を知っていたという自説を、ブラウン神父に熱く語り始めるのですが……。

 いわゆる安楽椅子探偵もので、ひたすら2人の会話で物語は進み、事件の真相に迫っていきます。
 ファインズの考えは、大佐の犬が神秘的な力で殺人事件を察知したというもの。この物語の冒頭に

「さよう、わたしは犬が好きだ。ドッグをさかさに綴ってゴッドとしたんではまずいがね」

 ブラウン神父のこんな台詞が出てきます。最初私は「そんな例えが出るくらい、犬が大好きなんだな」と思いました。

 謎解きの過程で、それが大きな間違いだったことに気付かされます。ブラウン神父は真の犬好きだからこそ、人間都合による犬の神秘ではなく、犬の生態を見つめていました。つまりは「見誤るな」と教えてくれていたのだなと。

 短編ではありますが、読み応えは長編1本を味わった気分です。ブラウン神父の全方位における博識さ、神に仕える身でありながら科学的な判断力、色合いがありありと浮かぶ風景描写の美しさも合わせて堪能してください。

 そして偶然ではあるけれど、国樹がかつて愛用していたダウンコートには「DOG/GOD」というタグが付いていたことを記しておきます。
「まるで私のためにあるようなコート!」と思って買いましたが、ブラウン神父に全否定されたのは残念無念です。私も見誤らず、犬の本当の気持ちに向き合わねばいけませんね。
イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

国樹さんちの美形犬さんたち、お散歩です♪
金時(きんとき)
黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ(怪我治療中)

足が悪くてもバギーに乗れば、一緒に遠くまでお出かけ出来るね

柑奈(かんな)
茶色のMIX犬/9歳/自由に生きるおてんば姫

お兄ちゃんと久々に並んで歩けて嬉しそう

こちらも、ぜひ!

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