『南アルプス山岳救助隊K-9 天空の犬』/樋口明雄

文字数 1,745文字

イラスト/国樹由香

 tree読者の皆さま、はじめまして。犬を愛しすぎている漫画描きの国樹由香(くにきゆか)と申します。東京在住で同業の連れ合い&保護犬2匹と楽しく暮らす毎日です。


 そんな私がある日のネットサーフィン中に見つけたのが「映画に出てくる犬の生死を教えてくれるサイト」(英語)でした。


「これは映画なんだ」とわかっていても、主役クラスで活躍する犬はもちろんのこと花を添える程度に出てくる犬でさえ、物語内での生死が気になって仕方ない国樹。それがネックで映画に集中出来なかった者にとっては「これだ!」と膝を叩くくらいのありがたさ。   


 そして思ったのです。「私は小説に出てくる犬について書きたい」と。そのアイデアにtreeさまが興味を示してくださったことにより今に至ります。


 というわけでこれは、犬が好きで好きでたまらない国樹が「犬が出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介していくコラムです。ミステリ中毒者ですが、ジャンルは多岐に渡るでしょう。


 ずっと考えていたタイトルは『犬は死にません』でした。でも「いきなりネタバレじゃないか!」ということに気付き、結局『いつも犬(きみ)がいた』に落ち着きました。


 ネタバレなしなので犬の生死について文章内ではふれません。ですが、犬好きの皆さまが「読んでよかった」と思う本のみを厳選していこうと。国樹と同じく犬が大好きなかたも、そうでないかたも、ごゆるりとお付き合いくだされば幸いです。


国樹由香


いつも犬(きみ)がいた/国樹由香

 記念すべき第1回目は樋口明雄さん著『南アルプス山岳救助隊K-9 天空の犬』(徳間文庫)。


 主人公は若き女性巡査の夏実(なつみ)。災害救助犬のボーダーコリー「メイ」と共に、東日本大震災の被災地で捜索活動をした経験を持っています。


 夏実は人の感情が色になって見える「共感覚」の持ち主でした。そんな彼女が被災地で見た色の恐ろしさは想像を絶するものでしょう。癒しの色を持つ相棒(バディ)のメイがいなければ、どうなっていたことか。


 心に傷を負った1人と1匹が災害現場から山へと働く場所を移し、物語は大きく動きます。メイは山岳救助犬になったのでした。


 山岳救助隊の日常は厳しいけれど、山の描写はリアルで眩しいほどの生命力に溢れており、共に山歩きをしている気分になります。夏実の仲間はそれぞれが秘めた過去を背負った救助隊メンバーズ、そして救助犬たち。


 これは余談ですが、小説内に空手のシーンが出てきます。実は空手歴20年の国樹なので、空手の動きがありありと脳裏に浮かび上がる表現力に感動しました。


 1粒で2度美味しいとは有名なキャッチフレーズ。でも、この小説は2度どころではなかったのです。主人公が巡査だから警察ものであり、大自然に挑む山岳ものであり、何よりメイをはじめとする犬たちが活躍する動物ものでもあり。犬が好きな人間にはたまりません。


 大物政治家まで登場し手に汗握るミステリ的展開に驚かされながらも、メイが健気に頑張る姿から目が離せなくなります。


 この本を読み終えたとき、犬と暮らす皆さまならば、自分の家にいるその子を抱きしめたくなるに違いありません。『天空の犬』というタイトルに込められた深いテーマに涙が。


 犬は私たち人間にとって魂の番(つがい)なのだと教えてくれる作品です。


国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

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黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ
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