『スパイク』/松尾由美
文字数 1,914文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第11回目の今回は、松尾由美さんの『スパイク』です!
予備知識ゼロで読んでいただきたい本を紹介するのは、本末転倒でしょうか。核心に触れず、この面白さをお伝え出来るよう最大限の努力をいたします。
というわけで今回のお話は、松尾由美さんの『スパイク』(光文社)です。
「スパイクは、わたしの犬だ。」
という、きっぱりとした一文から始まる物語。表紙を見ると、ビーグル犬とおぼしき可愛い犬の絵。きっとこの子がスパイクなんだな、と思いつつ頁をめくります。
主人公の江添緑(えぞえみどり)は事務員として働く28歳。平々凡々な毎日を送るひとり暮らしの彼女が、友人のすすめで共に暮らすようになったのがスパイク。ビーグルといえばのトリコロールカラーではなく、白に薄茶のレモンカラーという色合いです。
ある日の犬散歩中に緑は、スパイクそっくりなレモンカラーのビーグルを連れた青年に出会います。気になりつつもすれ違おうとしたのに、どうしても同じ方向によけてしまい笑い合う2人。
それきっかけで話したら、彼の犬もスパイクという名前だと。なんという偶然でしょう。
結局犬連れでお茶をすることになり、初対面とは思えないほど話が弾みます。彼は同い年のカメラマンで、林幹夫(はやしみきお)と名乗りました。
緑と幹夫は1週間後に会うことを約束して別れます。恋の始まりの予感がするエピソードですが、彼らの再会は容易ではありませんでした。翌週、幹夫は待ち合わせ場所に現れなかったのです。
楽しみにしていた約束をすっぽかされ、凹んで自宅に戻りスパイクに話しかける緑。この気持ち、よくわかります。私もつい我が家の犬たちに話しかけますから。
「あの人、どうして来なかったんだろう」
このセリフ以降、全く先が読めなくなります。SFとファンタジーとミステリと恋愛と犬。想像を絶する展開に加えて、一癖も二癖もあるキャラが続々と登場し満漢全席かと。当然幹夫が来なかったのには大きな理由が。
人間の緑と犬のスパイクは、この物語において最強コンビでした。とあるミッションのコンプリートを目指し、コンビで頑張ります。
絡み合った不思議が紐解かれていくのは爽快だけれど、後味はちょっぴりほろ苦い。それはビターチョコレートをいただいた気分に似ているかも。とても美味しいのに甘くはないんです。
そのぶん、犬好きの夢を叶えてくれたようなスパイクの活躍パートを、おおいに楽しんで欲しいです。
全部読み終えたとき、冒頭の一文が全く違うものに見えるはずです。犬の名前である「スパイク」を活かしたシーンは、胸が熱くなりました。
これは個人の感想ですが、都内のなじみ深い地名が沢山出てくるのが嬉しかったです。
晴れた秋の日に、緑と幹夫が出会った下北沢に遊びに行こうかな。もちろん私の犬たちを連れて。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
『MはミステリとメタルのM展』
東京都武蔵野市吉祥寺東町1丁目1-19 TEL+FAX 0422-22-6615
2022年10月13日(木)~19日(水) 12:00~19:00
※14日(金)と16日(日)はイベント開催のため18時まで
※最終日は17時まで
※入場無料
黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ
「お散歩に行きたくてウズウズ」
茶色のMIX犬/8歳/自由に生きるおてんば姫
「まつげ長い娘さん」