『シャルロットの憂鬱』/近藤史恵
文字数 1,810文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる連載の第5回目は、癒されることまちがいなし、の近藤史恵さんの『シャルロットの憂鬱』(光文社文庫)です!
まだまだ暑いですね。そんなわけで今回は、真夏の散歩道で木陰を見つけたときのような気持ちになれる連作短編集をご紹介。近藤史恵さん著『シャルロットの憂鬱』(光文社文庫)です。
真澄(ますみ)と浩輔(こうすけ)は子どもに恵まれない若夫婦でした。2回目の不妊治療の失敗を嘆く真澄に、浩輔が犬と暮らすことを提案。悲しみに暮れていた彼女の心が動きます。
とはいえ犬初心者の2人。まずは犬に詳しい叔父に相談したところ、おすすめされたのはなんと成犬のジャーマンシェパードでした。名前はシャルロット。
小型犬ならともかく大型犬だなんてとひるみますが、その子は怪我でリタイヤした警察犬だったのです。当然しつけは完璧で、いくつもの難事件を解決したほど賢いと。
結局会いに行った真澄たちは、初対面でいきなり恋に落ちます。雄々しいイメージのジャーマンシェパードではなく、可愛らしい女の子にしか見えないシャルロットに。
我が家の歴代犬は現在の子たちを含めて5匹。対峙した瞬間にもれなく一目惚れしていますから、このシーンは「わかる!」と膝を叩きたくなるほどでした。
そんなふうに家族になった2人と1匹が穏やかな日々を過ごしながら些細な日常の謎を解決していく物語なので、大事件でないぶん「もしかすると自分の町でもこんなことが起きているのかも」とワクワクします。
しかも面白く読ませながら、犬に食べさせてはいけないものや、犬の正しい撫で方や、ドッグランでのマナーなど、大切な基本知識を盛り込んであるのです。これぞ本当の犬愛。
更にいいのが「犬びいきすぎない」という点です。このお話には猫好きさんも鳥好きさんも出てきます。それぞれの立場や思いもちゃんと汲み取っており、作中に出てくる地域猫活動のエピソードも、とても大切なことを教えてくださるものでした。
全6話の中で個人的に惹かれてやまないのが「シャルロットと猫の集会」です。
犬散歩中にシャルロットが見つけた子猫。怪我をしていたので動物病院に連れて行ったら
「この子を助けて、それからどうなさいますか?」
と先生に訊かれ
「もらってくれる人を探してみますが、もしいないようならうちで飼います」
と浩輔が答えるくだり、デジャヴのようでした。
我々夫婦もうちの犬が見つけた子猫を保護したことがあり、そのときの会話がまさにこれだったのです。いい先生ほど、助けた先のことを考えられます。我々人間が動物と向かい合うときは、覚悟を持たなければいけないと改めて思いました。
色々と書きましたが、ここ(このお話)は夏の木陰です。冷たい飲み物を手に、ひたすらシャルロットの可愛さを堪能してください。賢さゆえにズルをしたり、ときに悪戯もしたり。でも人間が大好きな優しい女の子、シャルロット。その癒しパワーで夏バテなど吹き飛ばしましょう。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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金時(きんとき)
黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ
「来客好きなのでごきげんです」

柑奈(かんな)
茶色のMIX犬/8歳/自由に生きるおてんば姫
「ソファーの肘掛けに手をのせるポーズがお得意」