『恋愛よりお金より犬が大事なイギリス人』/入江敦彦

文字数 1,836文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第9回目は、入江敦彦さん『恋愛よりお金より犬が大事なイギリス人』です!

 犬が活躍する物語が大好きな国樹ですが、犬にまつわる日常のおしゃべりも大好物です。

 今回ご紹介するのは、楽しい犬エッセイでありながらイギリスの横顔まで知ることが出来るお得な1冊。入江敦彦さん著『恋愛よりお金より犬が大事なイギリス人』(洋泉社)です。


 イギリス在住の入江さん、なんと犬と暮らしておりません。でも、そこがいいのです。自分ちの犬エッセイは数多くあります。私もさんざん自分ちの犬漫画を描いてきました。

 この本で入江さんはイギリスで日々出会う「よそのおうちの犬たち」を、愛情溢れる目線で観察し、ときに撫で、話しかけ、感じたことを綴ってくださっています。

 犬と人間に心地よい距離感があるため「親ばか目線になりすぎてしまう」こともありません。犬に対する造詣が深く、勉強になる知識てんこ盛りです。とはいえ基本スタンスは犬礼賛型。読んでいて頷きまくりでした。


 イギリスにおける犬の名付け方や、適材適所で働く犬について、ゲイカップルと暮らす犬など、章ごとに次々と興味深い内容が語られます。

 特にホームレスが連れている犬の章は圧巻でした。何故って、ご本人が1日ホームレス体験をされたうえで書かれていたのですから。

 私も海外の街角で見かける犬連れホームレスの存在がずっと気になっていたのです。なので、この謎解きには感謝しかありません。結論として「犬は人につく」から「ホームレス・ドッグを憐れむのは間違い」ということを理解しました。


 ドッグ・シェルターについて言及している章もあります。シェルターの収容数からはみ出した犬たちを、殺処分されないよう引き取る別の小さなシェルターがあり、そこは「悲しい楽園」だと。  

 本文に

「悲しい犬たちが安心して暮らせる場所である。けれどここは《約束の地》ではない。」

とありました。あくまでもシェルターはかりそめの場所。命は助かっても家族はいません。新しい家庭に引き取られてこそ、本当の幸せが待つ「約束の地」に辿り着いたことになるわけです。


 小粋な犬の一人称で書かれた章もあり、心わしづかまれます。女王陛下と犬についての章はイギリスならではのテーマ。コーギーをこよなく愛した女王陛下は今年天に召されてしまいました。しみじみ時の流れを感じます。


 日本はこと犬に関しては欧米に大きく遅れていると常々思っておりました。ですが、2003年に書かれたこの本の中に出てくる日本の犬事情を2022年の今読み直すと「ああ、少しは前進しているのだな」と思い、安堵します。


 全編を通して伝わってくるイギリス人の揺るぎない犬愛に感動するしかないこの本で、一番私が共感したのは

「人間の代理を務めても、人間化しても、犬は犬。このへんが彼らの微妙な感性で、いくら人間に近づいても構わないが、人間になって欲しくはないのである。」

というくだり。そうなんです。犬は犬だから最高に愛おしい。そこだけは国樹もイギリス人と同じ場所に立てているかもしれません。


イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

国樹さんのおうちの愛犬2匹、今日も元気です!

金時(きんとき)

黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ

「バンダナでおすまし」

柑奈(かんな)

茶色のMIX犬/8歳/自由に生きるおてんば姫

「ドッグカフェでおすまし」

こちらも、ぜひ!

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