『ウォッチャーズ』/ディーン.R.クーンツ
文字数 1,874文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第4回目は、”犬と言えばクーンツ”、ディーン.R.クーンツ著の『ウォッチャーズ』です!
連載4回目で早々にこちらを紹介してしまいます。犬が好きなかたはもちろん、全人類に読んで欲しいディーン.R.クーンツの『ウォッチャーズ』(文春文庫)。
ジャンルがモダンホラーなので「怖いのはちょっと」と食わず嫌いのかたにもおすすめしたい超名作です。
主人公トラヴィスは36歳にして人生を諦めきっていました。彼は幼い頃から「愛するものの死」に何度も心を傷つけられ、孤独の淵に立たされていたからです。
そんな彼が森で出会ったゴールデン・レトリーヴァー。見た目は野犬のように汚れきってぼろぼろだけれど、その人なつこさは飼い犬そのもの。心ひかれつつもそのまま立ち去ろうとしたトラヴィスですが、ひと悶着あってその犬を連れ帰る羽目に。
それが彼の人生を揺るがす大騒動の始まりでした。人間と同じ、もしくはそれ以上の叡智を秘めていた犬に「アインシュタイン」という名前をつけるトラヴィス。知らぬ人はいない、天才物理学者の名前です。
アインシュタインはわけありの天才犬なので、アウトサイダーと呼ばれる凶悪な怪物と、謎の国家組織に追いかけられています。更に警察、残忍な殺し屋までも絡み、ピンチに次ぐピンチで読みながら怖くてたまりません。
しかし、トラヴィスはじめ味方をしてくれる人間たちは魅力に溢れており、読者をホッとさせてくれます。特にノーラ。トラヴィスと同様に孤独な暮らしをしていた彼女が、アインシュタインと関わったことで蝶が羽化するように変化し、トラヴィスと愛を育むさまは胸が躍ります。
口うるさい犬好きとしては何度も「犬にチョコレートを食べさせてはダメです!(犬の体には毒と言われているため)」と言いたくなるシーンもありましたが(笑)。
そんな幸せなシーンにほのぼのしつつも、アインシュタインは執拗に追われていますから裏に潜む恐怖を忘れることは出来ず、最終章まで手に汗を握ることに。クーンツの表現力に脱帽の一言です。
全人類に読んで欲しいと書いたのは大げさでなく、この作品が天才犬を通して「人間の愚かさ」に気付かせてくれるからです。令和の今も、世界のあちこちで愚かな戦いが繰り広げられていますよね。
アインシュタインは光、敵にあたるアウトサイダーは影。どちらもが人間の身勝手さで生み出されたものであり、殺戮と破壊を繰り返すアウトサイダーの深い悲しみが伝わるエピソードには号泣しかありませんでした。憎むべきはアウトサイダーではないのだと。
上下巻に渡る大作なれど、飽きる瞬間など一切なく、ページをめくる手を止めることが出来ません。しかも涙も止まりません。これを書くために再読した今回も大変でした。家人が驚くほどしゃくりあげていましたから。ですが、最高の後味なのでご安心を。
この本を読むと誰もが犬を愛さずにいられなくなります。途中に挟まれる「犬に贈る賛辞」に頷き、熱い涙を流してください。
真実の友である犬に、ありがとう。我々人間は永遠に君たちの愛を忘れないからね。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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