特別編!『ノラや』/内田百閒
文字数 1,956文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第45回目は、2月は猫の月!ということで、番外編です。
「いつも犬(きみ)がいた」ならぬ「いつも猫がいた」!
ご紹介するのは、内田百閒の『ノラや』です!
2月22日は猫の日でしたね。今年もネット上に可愛い猫さんたちの画像や動画が溢れていました。猫と暮らしていたら「うちの子のベストショットを見てください!」となるのは当然。楽しくて微笑ましくて、こういうお祭り騒ぎは大歓迎です。
そんな2月に国樹は担当Mさんから、とある提案をされていました。「せっかくの2月、スペシャル回をやりたいですよね」と。
それって猫の日のことですね! この回の公開日はもはや猫の日ではないですが、是非やらせてくださいとお返事しました。
というわけで、いつもは犬が出てくる本を紹介しておりますが、特別編の今回は猫が出てくる本をご紹介。さて何にしようかと考えていたとき、担当Mさんが「私は内田百閒先生の『ノラや』が大好きです」と言われたのです。
Mさんはとても趣味がいいかたなので、おおそれではと未読だった『ノラや』(中公文庫)を手に取りました。ひょんなことから内田百閒先生と一緒に暮らすようになった野良猫「ノラ」のことを丁寧に綴った随筆です。
「彼は丸で無防備の姿勢で寝る。さはれば細眼を開けて人の顔を見るが、面倒臭さうに又目をつぶつて寝てしまふ。仰向けに寝てゐる事もある。鼯(むささび)の様な恰好になつて、腋の下を出してゐるから、くすぐつてやつたが平気らしい。人間の様にくすぐつたがらない。」
さすが小説家としてだけでなく随筆家としても名高い内田百閒先生、まるで私の家に猫がやって来たかのような臨場感です。
元々猫に興味がなかったぶん観察力がものすごく、猫のしぐさの表現ひとつひとつが大変可愛らしいですし、旧仮名づかいも味わい深いです。
ご夫妻そろってノラに夢中になっていくさまは心あたたかくなります。犬と暮らす私にも「気持ちわかるなあ」という親ばかぶりを楽しく読んでいたのですが……ちょっと待って!
「ノラが昨日の午過ぎから帰らない。一晩戻らなかつた事はあるが、翌朝は帰つて来た。今日は午後になつても帰らない。」
なんとノラは失踪してしまうのです。それからの百閒先生ときたらそれはそれは大変なことに。毎日必死で探し、泣きむせび、仕事も手につきません。私も気がつけば涙ボロボロでした。
我が家の犬も「元々野良で、ただの雑種」ですが、かけがえのない家族なのです。取り替えなど絶対にきかない存在。だからこそ百閒先生が激しく悲しむさまに、胸が張り裂けそうになりました。
『ノラや』は読む人によって印象が大きく違うのではと思います。猫好きのかたには「涙腺崩壊を覚悟して読んでください。いい本ですが、手放しでおすすめは出来ません」と言っておきます。
猫好きでないかたには「猫と暮らす人たちはこれくらい自分の猫を愛しています。是非読んでみてください」と。
猫の日にふさわしいかどうか、とても悩ましい本ではありました。何故って、猫に限らず動物を愛する皆さまはこれを他人事としては読めないはずだからです。
泣いてばかりの百閒先生と共に泣いてあげようというかたに。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
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