『パーフェクト・ブルー』/宮部みゆき
文字数 1,584文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第15回目の今回は、宮部みゆきさんの『パーフェクト・ブルー』です!
爽やかなタイトルが気になって読んだら、意外な展開にとにかくびっくりしたのがこちら。宮部みゆきさん著『パーフェクト・ブルー』(創元推理文庫)です。
この物語は家族経営である蓮見(はすみ)探偵事務所の長女にして調査員の「加代ちゃん」が、探していた家出少年と出会うところから始まります。少年は高一の「諸岡進也(もろおかしんや)君」。家出していたとはいえ、真っ直ぐな性格の人好きのする男の子です。
加代ちゃんの相棒はシェパードで元警察犬のマサ。右足に弾傷を負い引退したけれど、驚くほど賢く、彼が一人称「俺」で語るパートが饒舌でそれはもう面白いのです。
いつも一緒にいる加代ちゃんのことはもちろん、蓮見家にまつわる人たちや、会ったばかりの進也君のことも、卓越した観察眼と嗅覚ですぐに理解するのでした。
主軸となる事件は、将来を期待された高校野球界のスーパースターが焼き殺されるというショッキングなもの。しかも被害者は、マサたちと知り合ったばかりの進也君の兄という悲劇。
マサは犬ですが、野球が大好きなのです。過去の経験からそうなったのですが、マサの野球にまつわる語りがとてもいい。物語の味わいをより深めてくれます。
話が進むにつれ、想像と違いすぎる展開になり、文字通り手に汗を握ります。それはまるで複雑な騙し絵のようで、重い真相に行き着いた頃には、心が折れそうに。「パーフェクト・ブルーってそういうこと……」となるでしょう。
ですが、さすが宮部さん。それぞれの人生が想像出来る、魅力的なキャラクターたちが次々と現れるので、笑ったり癒されたりしつつ読み進められるのでした。
マサのことを「大したワンコロ」と称した女性キャラには拍手をおくりたくなりましたから。
「悲劇はとりわけ強い酒なんだよ。」
これは探偵事務所所長である、お父さんの言葉。
「割っても割っても薄くならず、命取りになるような辛い酔いばかりを残す、暗い色をした酒なのだ。」
それを受けてのマサの補足。こんな犬と暮らしてみたいと本気で思いました。
宮部さんの長編デビュー作なので、発表はかなり昔の1989年です。当然スマホなど出てきませんが、古さなど感じずに楽しみました。マサに、そしてこの探偵事務所のみんなに、また会いたいなと思わせてくれるヒューマンドラマです。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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