『ハロウィンの犬』/村上しいこ・著、宮尾和孝・絵
文字数 1,730文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第35回目は、村上しいこ・著、宮尾和孝・絵の『ハロウィンの犬』です!
この夏は本当に暑すぎましたね。それは9月現在も継続中で、我が家の犬の抜け毛も止まらないほど。
なのに、街はすでにハロウィンの準備に忙しい印象です。日本でもイベントとして完全に定着したからか、クリスマスシーズンの赤と緑ばりに、オレンジと黒が目に止まります。
めまぐるしい季節の移り変わりに戸惑いながらも、ハロウィンのオレンジが、クリスマスカラーの次に大好きな国樹。
というわけで、今回ご紹介する本はまさに「目に止まった」1冊。オレンジ色とタイトルが決め手でした。村上しいこさん作、宮尾和孝さん絵による『ハロウィンの犬』(講談社)です。
みほちゃんは素直で可愛い女の子。夕方から開催されるハロウィン・パーティーに参加するのを楽しみにしていました。
でも、おばあちゃんが急に体調を崩してしまい、パーティーに行けないことに。衣装まで用意していたのにと悲しくなり、心にもない暴言をはいてしまいます。
お母さんはおばあちゃんの付き添いで病院、お父さんは仕事で不在です。凹みながらお留守番をしつつ、愛犬のプードル「フリル」に話しかけるみほちゃん。
「わたしって、なんてかわいそうなんだろ。そう思うでしょ、フリル。」
すると突然フリルが人間語でしゃべり始めるのでした。愉快なのはその口調。人間って勝手に犬の言葉遣いを考えがちではありませんか(国樹はそうです)。
シェパードならクールな男前ふう、セント・バーナードならどっしり構えていて基本寡黙、とか。
フリルはプードルですから、当然「可愛らしい」イメージでした。まさかの一言目が
「思わねぇよ。」
だとは、こちらも「思わねぇよ。」です。そんなフリルはみほちゃんに対して、ここぞとばかりに不満をぶつけます。男子であるフリルは、可愛すぎる名前が気に入らない様子。結局「グリル」という名前に落ち着きました。
グリルの「ハロウィンの日は思いがけないことがおきるもの。」という一言に納得させられ、みほちゃんは驚きながらもグリルと共に不思議な世界のハロウィン・パーティーに向かうのでした。
私が子ども時代に夢見たことがこの物語には詰まっています。自分の暮らす世界の隣には知らない世界があって、愛犬とおしゃべり出来て、自分の失敗した過去はちゃんと許される。そんな夢の世界。
だけど、みほちゃんは夢の世界にワクワクしつつも、心の奥ではおばあちゃんのことを忘れていません。楽しいだけのお話でなく、物語のテーマは少女の成長にあります。グリルとの絆にもきゅんとしますので、ハロウィンの季節に是非どうぞ。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
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