『探偵犬クリス 柴犬探偵、盗まれた宝石を追う!』/田部智子
文字数 1,711文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第20回目の今回は、田部智子さんの『探偵犬クリス 柴犬探偵、盗まれた宝石を追う!』です!
子どもの頃、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを心躍らせ読んだものでした。私の場合、それからシャーロック・ホームズへ。現在ミステリ小説が大好きな大人になった自分の、基盤となる読書体験だったと言えます。
今回ご紹介するのは、令和の今に少年少女である皆さまの、基盤となる作品かもしれません。田部智子さん作『探偵犬クリス 柴犬探偵、盗まれた宝石を追う!』(角川つばさ文庫)です。
主人公の栗原陽詩(くりはらひなた)くんは優しくて夢いっぱいな小学5年生。獣医師である母と動物看護師である父との3人暮らしです。そんな家庭に引き取られてきたのが、元警察犬の柴犬クリスティ。なんとミステリ作家のアガサ・クリスティから取った名前だそうで、通称はクリス。
警察犬といえばシェパードなどの大型犬が思い浮かびますが、クリスは柴犬でありながら優秀な警察犬でした。しかし、とある事情で引退を余儀なくされていたのです。
ひっこみじあんな陽詩くんは犬と暮らすのが初めて。最初こそ戸惑ったものの、わけありのクリスと気が合い、徐々にいいコンビになっていきます。
彼らを取り巻く人々も、老若男女それぞれが魅力的。特に陽詩くんの幼なじみ吉沢麻由香(よしざわまゆか)ちゃんは、大人しい陽詩くんに代わり、底抜けの元気さで物語を盛り上げてくれます。
舞台が動物病院ということもあり、可愛い犬猫が多数出演しているのもたまりません。
平和な町の多愛ない日常にほのぼのとしていたら、突然の強盗事件。「そうだ、このお話はミステリだった!」と気付かされます。
そこからは少年探偵団もびっくり、クリスたちの大活躍が始まるのでした。陽詩くんの推理力と麻由香ちゃんの行動力に感心しつつ、何よりも元警察犬の本領を発揮したクリスのカッコいいこと。
子どもたちが犯人探しをする羽目になるわけですが、そこには様々な葛藤があり、学びがあります。自分も子どもの頃、親に言われた数々の禁忌がありました。
陽詩くんたちの行動は手放しで褒められるべきものではないでしょう。自ら危険に身を投じたわけですから。
やりすぎた点は反省し、でも経験からしか得られないことを忘れず大人になるのは、すごく大切なことだと思いました。
などと書いていると、このお話が完全に少年少女向けと思われますよね。いえいえ、大人の我々が読んでも驚く展開の連続で「やられた!」と思わされるミステリです。
シリーズものらしく「引き」も効いているこちら、現代に少年探偵団に再会出来た気分で、ワクワクしますよ。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
金時(きんとき)
黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ(怪我治療中)
茶色のMIX犬/9歳/自由に生きるおてんば姫
「ふかふかまくら、だいすき」