『いぬ』/ショーン・タン
文字数 1,741文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第33回目は、ショーン・タンさんの『いぬ』です!
何度めかの確認ですが、こちら「犬が死なない本」を紹介する連載となっております。それをふまえて以下をお読みください。
私にとってとても大切なのだけれど、連載のテーマにふさわしくないのではと、紹介をためらっていた本があります。連れ合いに読んでもらったところ「これは微妙なラインすぎない?」とも言われました。
しばらく考えを巡らしつつ読み返していた最近のこと、立て続けに友人知人の犬たちが空の住人となったのです。
彼らは深い悲しみを抱えながらも前を向き、日々元気に過ごす努力をしています。そんな様子に私は背中を押されました。「やはり、この本を紹介したい」と。
奇しくも今はお盆です。自宅にご先祖さまの魂が帰ってきてくれる時期ではありませんか。ならば家族であった犬も帰ってくることでしょう。
ショーン・タン作『いぬ』(河出書房新社)は、心が辛いときこそ読んで欲しい「悲しみを乗り越えた未来には、絶対的な幸せが待っていると教えてくれる絵本」です。つまりはハッピーエンド。
過去作である『内なる町から来た話』に収録された1話を取り上げ1冊にしたものなので、とても短いお話です。しかし、そのスケールたるや。1万5千年ぶんの物語だということに誰もが驚かされるでしょう。
「かつて、わたしときみはまったくの他者だった。」
「わたし」が人間であり「きみ」が犬であるとすぐにわかる、冒頭の一文です。翻訳は岸本佐和子さん。私でなく僕でなく俺でなく、君でなくあなたでなくおまえでない。「わたし」と「きみ」ほどふさわしいチョイスはありません。的確で美しい言葉選びです。
文字数はほんの少しなれど、伝わってくる情報量がすさまじいのは、ショーン・タン氏の圧倒的な画力によるもの。
物語の中に様々な犬が登場しますが、画面サイズに対し「あえて」小さく描いてあります。顔もはっきりとは見えません。なのに、その全部に私は会ったような気がするくらい彼らには存在感があるうえ、表情もあるのです。
「そして、わたしたちはふとまたいっしょになった。
いつだってそうだったように。」
この文章の意味は、それぞれで確認してみてください。出会いと別れと再会を描いたこの本は、ファンタジーのようであり、哲学書のようでもあります。
作者あとがきまできっちり読むと、全貌がつかめる気がしました。そして、輪廻転生を信じたくなります。犬と人間の奇跡の物語を、今現在心に穴が空いている皆さまに。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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