『ドリトル先生 アフリカゆき』/ヒュー・ロフティング

文字数 2,142文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第29回目は、ヒュー・ロフティングさん『ドリトル先生 アフリカゆき』です!

 改めて書きますが、こちらは「犬が死なない本」を紹介する連載となっております。これは国樹のトラウマによるもの。子どもの頃、名作だと言われて読んだ『フランダースの犬』がショックすぎて。「めでたしめでたし、じゃない!」と大泣きしました。

 私はいまだ、あの日の辛さ悲しさを忘れることが出来ずにいます。大人になり分別もつくようになった今「犬が死ぬ名著」が沢山あるのも痛いほどわかっているけれど、この連載だけはひたすら安心して読める本にしぼろうと思いました。

 そんな理由で児童書が何度も登場する連載、今回は「読んだことがなくても主人公の名前だけは誰でも知っている本」を。ヒュー・ロフティング作『ドリトル先生アフリカゆき』(岩波少年文庫)です。
 現在は新訳も出ておりますが、ここは旧訳で。何故って翻訳者がかの井伏鱒二氏で、実に味わい深い仕上がりとなっているのです。「大ばかの三太郎!」というセリフがあるのですが、原文が気になって仕方ありません。
 更に挿絵はヒュー・ロフティング本人が描いており、不思議で独特な画風に知らず引き込まれます。

 全12巻あるドリトル先生シリーズ最初の物語で、ドリトル先生がどれだけ動物を愛しているか、どうして動物たちと会話出来るようになったのか、ドリトル先生と一緒に暮らす動物たちとの深い絆等々、ふまえるべき事柄が詰まっている1冊です。

「とくに先生のかわいがっていた動物は、ダブダブという名まえのアヒル、ジップという犬、ガブガブという子ブタ、ポリネシアというオウム、それからトートーという名まえのフクロでした。」

 先生には精鋭とも言える、可愛がっている子たちがいました。
 アフリカのサルたちに疫病が流行り次々に死んでいくのをくいとめてくださいと、サルのチーチーにお願いされたドリトル先生は、精鋭たちと船でアフリカへ。大冒険の始まりです。

 幼い頃、親が読み聞かせてくれたなかにドリトル先生シリーズがありました。楽しくて、何度も読んでもらっていたことを思い出します。
 今回超久しぶりに読み返して、驚きました。ただ楽しいだけではなく、さまざまな問題提起を投げかけてくれている本だということに。子ども時代の自分はわかりませんでした。あくまでも時代のなせるわざですが、人種差別を考えさせられる描写があります。

 それについての言及もされている、素晴らしい解説を是非読んでいただきたく思います。井伏鱒二氏のあとがきも素敵ですが、下訳をなさった石井桃子さんの丁寧な解説が最高なのです。
 原文だとドゥーリトル先生(やぶ先生)になるところを、井伏鱒二氏がドリトル先生とつけてくださり、もうそれ以外は考えられないと。本当にその通りだと思いました。

「わしは金払いのよい人間よりも、動物のほうが、かわいいのだ。」

 実の妹にまでそんなふうに話すドリトル先生ですが、動物に優しい人間性は、ちゃんと対人間にも発揮されています。
 例えば悪人がサメに食べられようとしていたら、動物語でサメと話し助けてあげます。その代わり、改心することを約束させて。

 ところで肝心の犬の話にふれていませんでしたね。アフリカでの大冒険の末、無事に帰路に着いたドリトル先生とご一行ですが、航路で海賊と出くわし大騒動に巻き込まれます。なんとか乗り越えたものの、行方不明の船乗り探しを依頼されました。
 物語のラスト近くまで「ほうきのかわりに、ぼろをしっぽにしばりつけて、床をはく」以外、ほぼ見せ場のなかった愛犬ジップが、ここで大活躍します。犬の嗅覚をふんだんに使った人探しには拍手喝采をおくりたいほど。

 余韻の残るラスト1行も大好きです。未読の皆さま、この機会にドリトル先生と大冒険に出発してみませんか。
イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

国樹は夫婦でヨーロッパ旅に来ております。犬たちは日本でお留守番をしてくれているので、今回はスペシャル画像を!
 スロバキアの犬さん
「長い坂を元気に登っていました」
スイスの犬さん
「パパ&ママとカフェにいました」
こちらもぜひ!

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