『容疑者』/ロバート・クレイス
文字数 1,696文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる連載第2回目は、ロバート・クレイス著の『容疑者』です!
犬が出てくるおすすめ小説を紹介するコラム、第2回。今回は翻訳小説から選びました。ロバート・クレイス著『容疑者』(創元推理文庫)です。
主人公スコットはロサンゼルス市警の警察官。深夜の銃撃事件に巻き込まれ、よき相棒だったステファニーを失ってしまいます。その死の瞬間がフラッシュバックし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しめられる日々。
かたや軍用犬として活躍していた雌のジャーマン・シェパード、マギー。彼女もアフガニスタンで唯一無二の相棒と慕っていた人間を失っているのでした。
そんな大きい喪失感を抱えた1人と1匹が出会うことにより、悲劇の瞬間から止まっていた彼らの時計がゆっくりと、でも確実に新しい時を刻み始めます。
犬好きの皆さまに言っておきたいのが、物語の最初に出てくるマギーと初代相棒ピートのくだりです。筆者は短いパートの中で軍用犬であるマギーの実力と魅力をあますところなく表現しています。
ですが任務は危険そのもの、結果悲しみのどん底に突き落とされるマギー。彼女の気持ちを思い、本気の涙がにじみます。犬が好きであればあるほど「こんなのもう読みたくない!」と、いきなり本を閉じたくなるでしょう。でもどうかそこを耐えてください。
同じく悲しみのどん底にいたスコットが、丹念にマギーとの関係性を作り上げていくところから、胸躍るような展開になっていきます。
物語の主軸となるステファニーを殺した犯人探しはミステリものとして楽しめますし、味がある警察関係者たちも興味深いです。特に警察犬隊の生きる伝説ハンドラー、リーランドの犬愛は最高でした。
「犬は家具じゃないんだぞ。神の創造物のひとつなんだ、おまえの言うことをちゃんと聞いてる」
というセリフに激しく頷く私。私も我が家の犬たちにもっと話しかけなければ。
この小説にはマギー目線で書かれている部分が多くあります。それが実にいい。優れた嗅覚をフルに使い行動するさまを丁寧に描くことにより、人間の勝手な思い込みでなく「マギーが自分の意志で選んで行動している」ことが伝わり、心から応援したくなるのです。
スコットがマギーに「行くぞ、大きいお嬢さん」と声がけするのですが、大好きなシーンです。40キロもあるシェパードのマギーだけれど、スコットは彼女をレディのように扱う。素敵です。
そんなスコットが世界一大切なマギー。人間同士でさえ、ここまでのパートナーに巡り合うのは難しいのではないでしょうか。
愛しかないこの物語、ハラハラドキドキで最後まで彼らと駆け抜けてください。ラストの1行、熱い涙を保証します。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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