『ザ・プロフェッサー』/ロバート・ベイリー

文字数 1,869文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!

大好評連載の第34回目は、ロバート・ベイリー『ザ・プロフェッサー』です!

 今回ご紹介する本は、このエッセイにおける最重要テーマを満たしていません。読了したのはずいぶん前。そして、紹介リストから早々に外していた1冊でした。

 なのに本として大変優れていたため、私は折に触れ思い出すのです。渋い主人公、彼を取り囲む魅力的な人々、引き込まれる怒涛のストーリーを。
 出てくる犬のキャラクターも素晴らしく、この面白い小説をどうしても紹介したいという気持ちが勝ってしまった次第です。

 というわけで『いつも犬がいた』特別版。犬好きには残念すぎる展開があるけれど読む価値おおいにあり! と断言出来るこちら。ロバート・ベイリー『ザ・プロフェッサー』(小学館文庫)です。

 主人公はアラバマ大学ロースクール教授のトム。かつて同大フットボールチームの花形であった彼は、卒業後に弁護士として活躍していたのですが、縁あって母校で教壇に立つように。
 そんな彼も今や68歳。愛する妻に先立たれたうえ、友人の裏切りで仕事を辞める羽目に。更に癌を患っていることまで発覚しました。人生の不幸がトムを立て続けに襲ってきたのです。

 心が傷ついた彼を自宅で待つのは白いイングリッシュ・ブルドッグのジョニー・ムッソ・マクマートリー。
 トムはムッソを「ビッグ・ボーイ」と呼んで、大切にしています。1人と1匹の時間は穏やかで優しく、このままトムは隠居していくかのように思われました。

 そんなトムの元に昔の恋人が連絡をしてきます。娘一家を失った運送会社の事故に納得がいかず、訴訟を起こしたいという相談でした。当初トム自身は関わらず、適任と思われる昔の教え子リックに弁護を依頼するのですが………。

 会話のシーンが多く、時折どぎついジョークを挟みつつのテンポのいいセリフ回しは、ネットフリックスのドラマのよう。物語に夢中になり、気付いたときには1時間経っているのも同じです。

 一筋縄ではいかない重要案件にどうしてもトムを引きずり出したいのは、やはりかつての教え子である弁護士のボー。

「確かなことは、たとえ今でも、犬としては長生きと言っていいほど歳を取ってしまった今でも、ムッソは脅されたからといって逃げて草の上で横たわって死んだりはしない」

 ボーは長いこと弁護士として法廷で戦っていないトムに、ゲキを飛ばします。
 そして本当にムッソの行動のおかげでトムは立ち上がるのです。そのエピソードは涙なくしては読めません。

 手に汗握る法廷ものですが、師弟の絆に胸が熱くなりますし、ラブロマンスまで絡んできます。老いてなお巨悪に立ち向かう姿のカッコいいこと。
 何より犬を愛してやまない皆さまの心を熱く(そして切なく)すること間違いなしのエンタテインメントなので、夏の名残りに是非ご一読を。


イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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