『迷犬ルパンの名推理』/辻真先

文字数 1,648文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第27回目は、辻真先さん迷犬ルパンの名推理』です!

 つい先日ツイッターで辻真先先生(とお呼びさせてください)が、冬のコミケで同人誌を出されるとツイートされていました。それがなんと、2月に脱稿なさったばかりの『迷犬ルパン異世界に還る』と知りびっくり。

 何故って国樹は今回、記念すべき迷犬ルパンシリーズ第1作目をこちらで取り上げたくて、再読中だったのです。
 1983年に発表された作品の新作を2023年に読めることに感動しつつ、辻真先さん『迷犬ルパンの名推理』(光文社文庫)をご紹介します。

 序章からミステリファンならワクワクしてしまう展開です。本編の主人公である犬のルパンが、とある三毛猫に遭遇するとだけ言っておきましょう。さすがのツカミです。

 物語は朝日正義という若手刑事を中心に進みます。名前の通り正義感に溢れ、見た目はイケメン。身体を張って頑張れるけれど、頭脳明晰にはほど遠い、ちょっと残念な朝日。
 そんな彼に生意気な口をききながらも心惹かれているのは、芸能界の片隅で活動する元気娘のラン。
 朝日はランの家に下宿しており、この2人の恋人未満なやり取りが青春ドラマのようで可愛いのです。

 ランの家にはサファイヤという愛らしいマルチーズの女の子がいます。そのサファイヤが惚れ込んでしまった野良犬が、ルパン。
 人間の食べ物をかすめとる泥棒犬ではあるけれど、なんだか憎めない風貌だし頭が良さそう。というわけで、ランが名付けました。朝日はルパンが気に食わないのに、結局飼い主認定されてしまうし。

 2人と2匹のドタバタコメディふうに進んでいたお話は、火事現場で黒焦げの死体が発見されたところから、ミステリへと大きく進行方向を変えていきます。

 死んでいたのは大手芸能プロダクションの会長である老婦人でした。事故死でなく殺人事件とわかり、大騒ぎに。
 しかもこれはきっかけにしかすぎず、まさかの連続殺人事件へと変貌していくのです。

 朝日も捜査チームの一員としてふんばりますが、複雑に絡んだ事件の真相はほど遠く。
 そんな迷宮で、謎解きの鍵となり大活躍するのがルパンです。言葉が話せないぶん動きと吠え声で、その驚くべき推理力を惜しみなく発揮するのでした。もはや人間以上ですね。

 スマホもなくPCも当たり前でない時代のミステリは、その不自由さゆえの自由があります。DNA鑑定で即逮捕もない。
 ほんの少し昔の日本にタイムスリップした気分で、ルパンの名推理に浸ってください。
イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

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「国樹の友人がいいカメラで撮影してくれました。」by国樹由香

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黒白のMIX犬/11歳/甘えん坊なシャイボーイ(怪我治療中)

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茶色のMIX犬/9歳/自由に生きるおてんば姫

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