『犬と笛』/芥川龍之介
文字数 1,515文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第7回目は、文豪・芥川龍之介の『犬と笛』です!
この連載も7回目となりましたので、ちょっと変化球を。
文豪の犬ものは一体どんな感じなのだろうと読んでみたら、大変面白かったのでご紹介いたします。芥川龍之介の短編『犬と笛』です。
皆さまご存知の通り、こちらは「物語に絡んでくる犬が死んでしまったらと思うと、怖くて読書に集中出来ない」皆さまに向けて、お送りしているブックガイドです。
ちなみに書いている私こそが一番のチキンであることは間違いありません。
なので、偶然見つけた今回のお話は賭けでした。短編なだけに、さらりと死なせてしまうかもしれないと(完全に文豪を疑っています)。
はたして、その不安はいいほうに外れてくれました。
主人公は女性のように優しい顔かたちに長い髪を持つ木こり、髪長彦(かみながひこ)。
彼は笛が大そう得意でした。動物ばかりか植物さえもとりこにするほどの音色です。
その日も仕事の合間に森の中で笛を吹いていたら、山の神が登場。素晴らしい笛のお礼になんでも好きなものを与えると言ってくれました。
髪長彦は
「私は犬が好きですから、どうか犬を1匹下さい。」
とお願いします。そんな無欲さが気に入られ、犬をもらって大喜び。
神様は3兄弟でしたので、最終的に3匹の素晴らしい犬たちが髪長彦の元にやってきます。
神様から与えられた犬たちは白犬の「嗅げ」、黒犬の「飛べ」、斑犬の「噛め」。それぞれの名前が表す通りの特別な力を持っていました。
彼らの力を使い、悪者にさらわれた姫を助けに向かう髪長彦の冒険譚です。
歯切れのいい文章と展開の早さであっという間に読み切ってしまいますが、盛り沢山な内容で「これぞ児童文学」という明快さ。
カッコいい犬たちは大活躍するし、神様も悪物(怪物)も「動いているところが見たい!」と思ってしまうほど興味深いビジュアルなのです。不思議な魅力に満ち溢れた、遥か昔が舞台の物語。
もちろん大人もじゅうぶん楽しめる内容なのがさすがの一言。特にオチがきいています。
短いお話ですので、入眠前の読書にいかがでしょう。その夜はきっと楽しい夢が見られることと思います。
オチの真相が気になって眠れない人がいらっしゃるかもしれませんが、そこは自己責任で(笑)。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
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