『犬を飼う武士 十時半睡事件帖』/白石一郎
文字数 2,054文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」。
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第30回目は、白石一郎さんの『犬を飼う武士 十時半睡事件帖』です!
昔はよくTVで時代劇を観ていました。『銭形平次』、『水戸黄門』、『大岡越前』、『暴れん坊将軍』、『必殺仕事人シリーズ』等々。あからさまな悪を斬るスタイルは胸がすく思いで、毎週楽しみにしていた私です。
並行して時代小説も読んでおりましたが、ある時期からミステリ沼に浸かってしまったため、時代小説はたしなむ程度に。前述のTVドラマでの学びが、私の精一杯と言えます。
今回は知識が浅い私が読んでも大層面白かった作品をご紹介。白石一郎さん作『犬を飼う武士 十時半睡事件帖』(講談社文庫)です。
福岡藩総目付の十時半睡(とときはんすい)という渋い隠居老人が主人公。シリーズ第4弾で、味わい深い6話による連作短編集です。
要所要所で物語に絡んでくる半睡のカッコいいこと。飄々としているのに聡明で。
「半分睡って暮すという洒落で隠居名を半睡と号したが、睡って暮すようなわけにはゆかなかった。」
半睡という人を食ったような名前の真相です。NHKでドラマ化もされていると知り、とても観たくなりました。
江戸時代の福岡が舞台というのが新鮮で、風景描写からして興味津々。せわしない現代に比べ、ゆっくりと時間が流れるさまが、手に取るように伝わってきます。
表題作の「犬を飼う武士」では年頃の男女が、松林に捨てられた2匹の小犬を通じて出会います。心優しい2人ですが、事情で犬を家には連れ帰れません。
小犬の世話のために松林に通ううち、2人の距離も徐々に近付いていくのでした。
とはいえ簡単にいかないのが江戸時代。身分違いという大きな壁にはばまれます。
現代に生きる自分が読むと「そんな馬鹿な」という展開に歯噛みする思いが。恋愛さえも自由ではなく、お家のために己れの心に嘘をつかねばならない時代。
そんな2人と一瞬の関わりがあったのが半睡でした。
「ほほう、犬小屋か」
松林の中から聞こえた小犬の鳴き声が気になり近付いた先に、2人がいたのです。
ふたことみことの関わりが彼らの運命を大きく変えてくれることになろうとは。
ちなみに「半睡はもともと生きものが好きだ。」という一文があるのですが、作者である白石一郎さんが相当の犬好きなのではと想像します。それほどに、この短編に出てくる小犬たちは愛くるしいのです。
「濡れて二匹が丸くなっている姿は、毛鞠が二つ重なっているように見えた。」
なんと可愛らしい表現なんでしょう。目に浮かぶようです。
さて、隠居と言いつつ総目付という立場の半睡は、いまだ藩内のあらゆる事件に手を貸しています。2人と小犬たちの案件は事件に発展するのか否か。それは皆さまの目で確かめてください。
表題作以外も、半睡の裁きに強くうなずかされるでしょう。時代小説ならではの切なさに身をゆだねつつ、机の小さな灯りだけで読むのを推奨したい1冊です。
並行して時代小説も読んでおりましたが、ある時期からミステリ沼に浸かってしまったため、時代小説はたしなむ程度に。前述のTVドラマでの学びが、私の精一杯と言えます。
今回は知識が浅い私が読んでも大層面白かった作品をご紹介。白石一郎さん作『犬を飼う武士 十時半睡事件帖』(講談社文庫)です。
福岡藩総目付の十時半睡(とときはんすい)という渋い隠居老人が主人公。シリーズ第4弾で、味わい深い6話による連作短編集です。
要所要所で物語に絡んでくる半睡のカッコいいこと。飄々としているのに聡明で。
「半分睡って暮すという洒落で隠居名を半睡と号したが、睡って暮すようなわけにはゆかなかった。」
半睡という人を食ったような名前の真相です。NHKでドラマ化もされていると知り、とても観たくなりました。
江戸時代の福岡が舞台というのが新鮮で、風景描写からして興味津々。せわしない現代に比べ、ゆっくりと時間が流れるさまが、手に取るように伝わってきます。
表題作の「犬を飼う武士」では年頃の男女が、松林に捨てられた2匹の小犬を通じて出会います。心優しい2人ですが、事情で犬を家には連れ帰れません。
小犬の世話のために松林に通ううち、2人の距離も徐々に近付いていくのでした。
とはいえ簡単にいかないのが江戸時代。身分違いという大きな壁にはばまれます。
現代に生きる自分が読むと「そんな馬鹿な」という展開に歯噛みする思いが。恋愛さえも自由ではなく、お家のために己れの心に嘘をつかねばならない時代。
そんな2人と一瞬の関わりがあったのが半睡でした。
「ほほう、犬小屋か」
松林の中から聞こえた小犬の鳴き声が気になり近付いた先に、2人がいたのです。
ふたことみことの関わりが彼らの運命を大きく変えてくれることになろうとは。
ちなみに「半睡はもともと生きものが好きだ。」という一文があるのですが、作者である白石一郎さんが相当の犬好きなのではと想像します。それほどに、この短編に出てくる小犬たちは愛くるしいのです。
「濡れて二匹が丸くなっている姿は、毛鞠が二つ重なっているように見えた。」
なんと可愛らしい表現なんでしょう。目に浮かぶようです。
さて、隠居と言いつつ総目付という立場の半睡は、いまだ藩内のあらゆる事件に手を貸しています。2人と小犬たちの案件は事件に発展するのか否か。それは皆さまの目で確かめてください。
表題作以外も、半睡の裁きに強くうなずかされるでしょう。時代小説ならではの切なさに身をゆだねつつ、机の小さな灯りだけで読むのを推奨したい1冊です。

イラスト/国樹由香
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
★国樹さんちの愛犬がLINEスタンプになりました!
[MIX犬のきんとき&かんな]
https://line.me/S/sticker/23611465/?lang=ja&utm_source=gnsh_stickerDetail
無事にヨーロッパ旅から帰ってきた国樹です。画像は今回もヨーロッパの街かどで出会った犬さんで。
スイスの犬さん・その1
「暑すぎて、噴水に飛び込んでいました」
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スイスの犬さん・その2
「シャーロック・ホームズで有名なライヘンバッハの滝で出会いました」
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初めて国樹が作成したLINEスタンプ、発売中です。犬好きな皆さま、我が家の犬たちを是非よろしくお願いいたします! by国樹由香
[MIX犬のきんとき&かんな]
https://line.me/S/sticker/23611465/?lang=ja&utm_source=gnsh_stickerDetail
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