『雨はコーラがのめない』/江國香織
文字数 1,864文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第43回目は、江國香織さんの『雨はコーラがのめない』です!
自宅リビングは日当たりがよく、冬の晴れた日は暖房なしで十分あたたかいです。こんな日は仕事部屋でなく、リビングのソファーに座って原稿を書く私。横には昼寝を楽しむ茶犬の柑奈ちゃん。
この子はシェルターで出会ったときから「薄幸の美少女」顔をしており、どうしても呼び捨てには出来ないのでした。彼女の平和な寝顔を見つめていると「私も一緒に眠りたい」となるため、横で仕事をするのは諸刃の剣です。
以上が我が家の日常ですが、今回ご紹介する本は、作家と愛犬の日常を音楽と絡めて紡いだエッセイ集。江國香織さん作『雨はコーラがのめない』(新潮文庫)です。「のめない」をひらがなにしているところ、好きだなあ。
愛犬はオスのアメリカン・コッカスパニエルで名前は雨。よくある犬の名でなく、雨。シンプルに「なんて素敵なんだろう」と思いました。
全31編によるエッセイで、大きな出来事が起きるわけではありません。ですが潔く優しく、ときに力強い文章の心地よさたるや。読む季節によって違う味わいがあるでしょう。私の紹介などとても無粋に思え、静かに発光しているような文章を引用しまくりたくなります。
犬と暮らしたことがある人が楽しめるのはもちろんですが、この本は音楽好きの心に確実に刺さります。嬉しい日や風の強い日や寂しい日など、様々なシチュエーションで江國香織さんは音楽を聴きます。雨と。
「今度のアルバムは、全曲ビリー・ホリデーのカヴァー。私はメリー・コクランが好きで、雨はビリー・ホリデーが好きなので、二人でわくわくしながら聴いた。」
メリー・コクランというアイルランドの女性歌手の新譜についてのくだりです。雨の好みを断言しているところ(全編にわたり、その傾向)、同じく犬と暮らす者として激しくうなずいてしまいました。
「もうじき四時になる。おもてがあかるくなると、夜に聴いていた音楽というものはいきなり光を失うから、その前にけさなくちゃいけない。」
こんなカッコいいフレーズ、どうすれば思い浮かぶのでしょう。そして、確かにその通りなのです。私も身近に音楽があるのが当たり前の生活をしておりますが、朝昼夜で聴きたい曲を選んでいるなと。
取り上げているミュージシャンは多岐にわたっています。知っている人も知らない人もいますが、表現が魅力的すぎて、この本を読んだ人は必ず「この本用セットリスト」を作り、曲を聴きながら読み返したくなるに違いありません。
「音楽への愛をばらまいた功罪っていうかね、それはもう好き嫌いを越えて、感動的としか言えない」
誰の話をしていると思いますか? ビートルズです。この考えを雨に語りかけているのです。犬と人間の理想的すぎる関係は、なんと愛おしいことでしょう。
日暮れの時間が遅くなってきましたね。この本を読みながら、ゆっくりと音楽を楽しむ休日などいかがでしょうか。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
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