『氷の上のボーツマン』/ベンノー・プルードラ
文字数 1,695文字
イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」。
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第14回目の今回は、ベンノー・プルードラの『氷の上のボーツマン』です!
国樹の趣味嗜好を知り尽くしている友人が、誕生日にプレゼントしてくれた本。それが今回ご紹介するベンノー・プルードラ作『氷の上のボーツマン』(岩波書店)です。
2009年に翻訳された旧東ドイツの児童書なので、私はすっかり大人。友人からプレゼントされるまで、この本の存在を全く知りませんでした。
ちなみに私は個人的にドイツに大変興味があり、何度も訪れています。
何故それほど好きになったか簡単に説明すると、憧れの漫画家である萩尾望都先生や青池保子先生がドイツを舞台にした素晴らしい作品を沢山描かれていたこと。更に私の一番好きなミュージシャンが旧東ドイツ出身であること。その2つが大きいです。
そんな私ですから、この本の帯にある「半世紀を経てよみがえる、旧東ドイツの名作」という文章を見て、期待に心躍ったのは言うまでもありません。
黒い子犬がちょこんと座っている表紙イラストにまず目を引かれます。裏表紙にはボートを漕ぐ少年の絵が。一体どんなお話なんだろうとワクワク。
味わいのある画風が実に魅力的です。木版画を彷彿させる素朴なタッチは古さを感じさせず、むしろオシャレなくらい。
ボーツマンは海辺のタグボート(蒸気船)に住んでいます。巧みな文章で表現される冬の港は、それはそれは寒そう。
ですが、船長の愛犬でとても大事にされているボーツマンは、毎日ぬくぬくと幸せに暮らしています。
そんなある日のこと、ボーツマンは3人の子どもたち(ウーヴェとヨッヘンとカトリン)に陸(おか)に連れ出されます。
寒さをものともせず元気に氷の原っぱで遊んでいた3人と1匹。ところが、足元の氷が割れてしまいさあ大変。ボーツマンだけが氷の上に取り残されてしまいます。
割れた氷が流される先は凍てつく海です。ボーツマンと子どもたちは窮地におちいるのでした。
子どもたちは1番年上のウーヴェでさえ、たったの7歳です。けれど、知恵と勇気でとことん頑張ります。船長の大切なボーツマンを助けるために。
長さにして86ページ。読み終えるのにさほど時間はかかりません。しかし、手に汗握る展開は短さなど微塵も感じさせず、質のいい短編映画を観たかのよう。
タグボートに住む犬ということが、終盤で物語に大きく関わってくる点も最高でした。特に頑張ったウーヴェにスタンディングオベーションを。
ボーツマンとはドイツ語で「甲板長」という意味だそうです。最初から最後まで可愛すぎる甲板長と、子どもたちの大冒険。
押し付けがましくなく沢山のことを教えてくれる、素敵な物語です。今年のクリスマスプレゼントにいかがでしょうか。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
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