第39回/どうしてもダメなもの

文字数 1,451文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 ある作家を避けながら、この歳まで生きてきました。その作家は、オタクならもう通って当然の方で今でも大人気です。そして、僕はその人のことを全く嫌ってもいません。では、何故そのような状況となったのか。これはシンプルに、中学生の頃大っ嫌いだったクラスメイトがその作家の作品を大好きだったから。


 僕は、そいつのことが心の底から嫌いだった。理由も明確だ。彼は神聖なデュエル(遊戯王カードでの対戦)でインチキをする。具体的には見てない時にさらっとカードを引いたりする。遊戯王カードでは、手札が一枚でも多く引けるかどうかですら大きく試合を左右する要素であり、ドローソースのためならライフポイントなんてガンガン犠牲にすることすらある。手札の数=力に直結する。


 であるから、いかにして手札を順調に増やしていく・残すかが重要だ。僕は、『除去ガジェ』なるテーマを使用していた。ガジェットはステータスが弱い代わりに、召喚すると仲間を手札に加える。おかげで手札にモンスターが切れる可能性が少なく、他のカードを遠慮なく相手に嫌がらせする魔法・罠に割ける。相手がなにか行動するたびに、速攻魔法や罠を発動して制限・破壊し、ガジェットでチマチマとダメージを与える陰湿な快感が気持ちいい。次々と手札のカードが制限されていくので、次第に相手が雁字搦めになって動けなくなる様子は、切り札のパワーに頼るデッキではなかなか味わえない。


 が、そいつときたらどうだ。遠慮なく一ターンに2枚ドローする。そのせいでこちらの除去が追いつかない。本人の中ではアカギのつもりかもしれないが、残念なことに不正がバレバレなのだ。気づいたら手札が不自然に増えているし、なんなら敵ターン中に引いている様子も皆にモロバレ。けれども、場の雰囲気を悪くしたくないので誰も注意できないのだ。みんな相手のモンスターは破壊しても、友情までは破壊したくない。


 結果、僕はそいつがめちゃくちゃ嫌いになったうえで、そいつが大好きと勧めてくるある作品を完全に受けつけなくなった。奥深いストーリーや個性的なキャラクターが多数登場し、一世を風靡したその作品は、いまだに根強い人気を持ってタイムラインへ流れてくる。きっと、ちゃんと僕も好きになれるような内容なのであろう。


 もう15年くらい前の話で、そいつだって(たぶん)今では立派な社会人で、もう「一ターンに何枚もドローしてはいけない」なんてルールを守っているはずだ。今もカードゲームに興じているかは知らないが……。中学時代の若い過ちのひとつで、こんなことで十数年も、しかも全く無関係のコンテンツまで敬遠しているのは完全におかしい。


 けれども、そうなってしまったからには仕方ない。きっと、これからも僕はそのコンテンツへ触れることはないだろう。「目に入れてはいけないもの」として十数年も身体に染みつけた癖は、そう簡単に拭えるものではない。不思議なものです。「生理的嫌悪感」。わかっていてもどうにもならないバグが人間にはたしかにある。

【MGのターンX】

久々にガンプラを作りました。ターンXは線が多くて墨入れしているだけで楽しいし、動かした時のスタイリッシュさと異形さのバランスがとても素晴らしい。大好きな機体です!

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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