第49回/単語に反応して怒られる世界

文字数 3,310文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 高校時代の友人が、数ヶ月前から生活保護を受給しており、心配なのと単純に友達なので定期的に様子を見に行ったりしている。彼は格闘ゲームが大好きで、起きて寝て、ヨーグルトとカロリーメイトを食べる以外には、ほとんどの時間をスト6に費やす生活を送っている。受給額的にもそれがギリギリですしね。そのうえで彼は他者が嫌いなのでネットもほとんど見ない。無職がネットに入り浸ってもろくなことがないので、この判断はとてもえらい。カッコいい。


 「なにか困っていることはないか?」と訊いても、「人間関係が最小なうえでスト6だけに集中できるので今が一番幸せだ」と答えるのだ。このレベルで「足るを知る」人物が友人で誇らしいぜ。


 といった話を日記に書いたら、さまざまな反応がありまして、たいていは「こういう暮らしもあるんだな」と好意的でしたが、やはり「生活保護」という単語に反応し、「こんなやつに俺が働いて収めている税金が使われているなんて許せない!」と怒っている方々もわずかに登場した。ひどい人は「その友達との関係を自慢しているならお前が養え」ともはや理屈になっていない。実際、同じ中野区に住んでいるのだから、僕が払った住民税が彼を支えているのだが、そういうことではないでしょう。


 もちろんインターネットなのだから、こういった反応があることは予想していたので、もはや怒りも悲しみもない。「夏になると蚊がやってくる」程度の感覚に近い。が、どうせなのでここはそんな彼らの反応に対して思ったことをコラムのネタに変換しようと思う。向こうも好き勝手に他人の日記(と一応僕の友人)へ罵詈雑言を並べてきたのだからお互い様ですね。


 さて、第一にまず「セーフティネット」があることのありがたみは理解していたほうがいいのではないでしょうか。友人は数々のアルバイトにて失敗し、精神的に壊れている。もとより友人の数が少ないタイプでもあったし、精神科ではうつ病と診断された上で軽度の統合失調症ではないかと診断されています。そんな彼は頼れる家族もないため、このままではホームレスになるしかない。そんな状況なので、さすがに長年の友人としてどうにか彼が生活保護を受給し、住めるアパートが見つかるまで手助けしてきた。さすがに友達が路上で野垂れ死ぬのは見たくない。


 人間、いつどこで壊れるかわからないのだから、もしなにかのきっかけで動けなくなっても、国がしばらくどうにかしてくれる余裕があること自体は、たいへん素晴らしいことだ。日記を引用して怒っている人たちの中には「働いて帰ってきたら生活保護の話が流れてきてマジでイライラした!!!」とブチギレている者もおりましたが、労働のストレスのせいで知らない人へここまで攻撃的に直接言葉をぶつけてしまう状態なら、もしかしたらアナタだって急に心が壊れる可能性も十二分にある。というか、画面越しの相手へ一方的にキレている時点でわりとおかしくなっていると個人的には感じます。


 無論、ケースワーカーを通して彼もいつかゆっくり、ゆっくりと心を安定させて社会復帰することになると思いますが、それまでの間、スト6を生き甲斐にする休憩時間があってもいいはずだ。彼は本当に人間関係が苦手だ。無理やり社会復帰したとて、また職場でトラブルを起こす。自身の存在が仕事先の「マイナス」になることに耐えきれずに引きこもることを選んだのです。決して、「国の金で毎日好き勝手遊んでやるぜ!」なんてメンタルではない。生活保護の受給が認可されるほどには追い込まれており、家族の後ろ盾もないのだ。大体の人は「ご家族に貯金があるので実家へどうぞ」と指摘される。受給のハードルの高さとして「家族に扶養してもらえない環境」があるでしょう。いいだろ。僕たちは沖縄の貧民街生まれなんだ。ちょっとくらい優しくしてやってくれ。「自分は絶対に心も壊れないし一生納税し続けられる!」と自信を持って生きていけるなら、単純に幸せなことです。その幸福をわけてあげてほしい。


 そして「納税しているほうがえらい」。これが個人的にはムカつく意見だ。


 急に社会への貢献度を指標にしてくる。人間の優劣を「納税」や「労働」で決めるわけだ。あまりに社会人としての歯車すぎやしないか。自国の役に立つことを人生の全てだと本気で考えいているわけじゃあるまいし、都合よく他者を叩くときだけ「社会性」を武器にするのはズルい。というか、よほどの納税額でないかぎりは、国から受けている恩恵のほうが大きい。もちろん労働して社会を支えてくれていることはたいへんえらいが、そんな人間もまた国に大きく支えられている。その誤差でしかないのに生活保護受給者を攻撃するのはどうなんだ。


 仮に、それなりの額を納税していたとて、じゃあ「納税額が多ければ多いほど偉い」という理屈になってしまう。資本主義の体現者だ。まあ、突然ネット上で流れてきた文章に噛みつく人が(労働でイライラしているのだし)余裕ある生活をしているとは考えにくい。もし、彼らが本気で「社会への貢献度」によって人間のランクが決まると思っているのであれば、ゲームの売上の何割かを一気に国に収めた僕のほうが偉いことになる確率が高い。なんで頑張って数年かけてゲームを製作したのに、そこで得たお金をたくさん国へ払わなければならないのか! でも払った! これからも払い続ける。


 という現状なのだから、少なくとも現時点では僕のほうが同年代に比べてはるかに納税した自信がある。これは自慢ではない。向こうが「俺の血税でゲームしやがって」と税を武器に叩いてくるのだから、同じく税を盾に抵抗しているだけだ。僕はべつに他人がいくら税金を払っていようがどうでもいいし、それで他人を評価する気は一切ない。僕が払った税金も、それで中野区の設備がちょっとでもよくなるならまあいいんじゃないかと割り切っている。納税額によってえらぶっていい世界になると、ぐんぐん資本主義が加速して首が締まっていくのはそっちじゃないか!? と矛盾を感じます。


 つまるところ、「生活保護=楽してお金をもらって遊んでいるやつら」という、一部の偏ったニュースやネットの風潮に毒されてしまい、想像力が欠如しているんじゃないか。そりゃ中には生活保護のお金でパチンコへ行くやつだっているだろう。けれども、それはごく一部の人間だし、それすら自由っちゃ自由ではある。それに、そんなやつが多少居たとて自分とは関係ないではないか。「国からお金をもらっている人間を叩ける」チャンスがきた瞬間に、普段は持ち合わせてもない正義感と義憤を燃やすのもだいぶ大衆化している。それはそれで労働かネットをしばらく離れたほうがいいんじゃないか。もっとゆるく適当でいいじゃないか。他人のことなんて……。


 ……と、僕はそう思うわけですが、そこまでひっくるめてさらに攻撃されるだろう。僕の思想もまた無限に「悪」や「怠惰」、「傲慢」だと解釈できるし、なんなら本気で自慢してきたと思う人間もいる。ここまで説明してなお「生活保護」の単語のみにブチギレる人もいるかもしれない。まあ、こんな辺境のコラムにまで怒りにくるほどなら、むしろ感動しますが。不特定多数に接続されて必ず誰かの正義や悪になってしまう異常な世界であるかこそ、他者を嫌って彼がネット断ちする意義が補強されていくわけですね。この話はまさにその体現です。なんときれいなオチなのだ。

【ブラック・ローズ・ドラゴン】


遊戯王カードの立体フィギュア。ブルーアイズやレッドアイズ、神にブラックマジシャンなど定番モンスター以外からも選ばれるほど、そのデザインはたいへん美しい。シンクロ召喚されると全てを巻き込み破壊していく効果すら美しく感じており、その在り方の大ファンとして今回の立体化はたいへん嬉しく思う。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色