第34回/普通にニュースに話すアカウント

文字数 2,892文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 他人と会話していた際に、「ネットで偉そうに一言申してくるアカウントの正体はなんだろう」という話になりました。僕らのような創作なりネットでの活動をする人間、芸能人や政治家たちが必ず目にするアレです。つねに攻撃的で誹謗中傷が大好きな謎の人たち。一言で言えば「暇なんだろう」で終わるのですが、せっかくなのでもう少し踏み込んで考えてみましょう。なぜなら、僕も彼ら彼女らと同じく暇だから。


 まず、「暇」であるはものの、その暇さは、無職がず〜っと一日中やることがないレベルの暇とはちょっと違うはず。これはネットで配信者をプロデュースしている知り合いの大人の見解ですが、「週5で働いて帰宅した後ビール片手にスマホを開いてぐだぐだネットを覗いている」感じの暇さではないか。つまり、「もう次の日に備えて眠るまで時間の余裕はあるけれど、労働によって複雑なことはできないのでせいぜいスマホかテレビを眺めるしかできない」状態だと思われる。


 今日もやりたくない労働に疲れて、くたびれた状態で帰宅する。冷蔵庫にはスーパーで買いだめしておいたキンキンのビールが冷えている。アルコールからのレンチンした焼き鳥コンボで自分自身を労う。Switchでゼルダの新作を進めたり、LINEで友人と通話して愚痴大会を開くのもいいけれど、明日も満員電車に揺られることを想像するとそんな活力も削がれてしまう。よし、スマホでも見よう!


 するとどうだ、ヤフーニュースでもTwitterでもいい。数分スクロールして話題を追ってみると必ず毎晩なんらかの事件が発生しており、有名人や作品がやらかしている。いい塩梅にアルコールという毒が脳味噌を犯して気持ちよくなったいま、まとめ記事を読んだ感想は「バカだなーコイツら」であるでしょう。わっはっは。人気者がしょうもないミスで人生台無しになる様子は気持ちいい! これはタレがたっぷり染み込んだ焼き鳥盛り合わせ以上の快楽だ! ちょっと気分が良くなる。または、「なんて悪いやつだ許せん!」と義憤が湧いてくるかもしれない。無関係なのにね。


 どちらにせよ結果は同じで、そこから一言申したくなるまですぐだ。暇な人間たちがなかなか逆らえないネットの魔力。「流れてくる話題になにか言いたくなってしまう」現象。特にネット上のアカウントに責任のない疲れた社会人ならば、そのトリガーは特に軽い。「こんなクソバカが有名になって稼げる国は終わりだな」「どうせコイツは金と女のためだけしか頭にないよ」「また税金をムダに使って恥ずかしくないのかこの国は……?」など、ちょっぴり偉そうな目線で書き込んで、本日のサンドバッグを殴って労働のストレスを解消しちゃおう♪ こいつらは悪で、こっちは法律を守っている正義。なんの問題もない。相手の自業自得、勧善懲悪だ。バカをバカにして何が悪い。


 そうした書き込みを終えてスッキリしたあと、酔いの勢いに任せて気絶する。翌日には、そんな投稿のことなんて忘れて電車へ走る。またしてもやり甲斐のない仕事に疲弊し、その傷を酒とネットでの一言で癒やしていく。そんなルーティン。それ以上の特別な感情は全くなく、「人気者がムカつく」以上に行動原理もない。ただ、そういった書き込みが積もっていくので、端から見たら「つねにネットで怒っているヤバいアカウント」と認識されるでしょう。けれども、本人たちは自分が頻繁に憤っているとも思っていない。根本的にネットの利用方法が違っており、向こうのネット観は酒の肴に社会の不平不満をぶつけるちょっとしたストレス解消装置。そんな人から見れば、ネットにどっぷり浸かった人間がいちいちマナーやルールがどうと細かいこと言ってくるのがうるさくて仕方ない。叩いた人気者のゴシップがデマで、本当は別の加害者が居たとてどうでもいい。真実や正当性を追求したとて、焼き鳥は美味しくならないのですから。


 しかし、彼ら彼女らは週5で働き、社会を回している。えらい。完璧にえらい。僕の昔の知り合いも、社会人になって以降、気づけばネットで何かが話題になったときに一言申して帰るだけのアカウントと化していた。しかも妙に偉そうだしピントがズレていることも少なくない。けれど、彼は日々働いて直接人々の生活を支えている。特定を避けるため適当に書きますが、たとえば電柱を整備する仕事をしているとする。彼が街の電柱と電線を結んでくれるおかげで、住民の家に電気が灯される。立派なことだ。


 そんな彼が労働を終え、また次の仕事が始まるまでの僅かな時間でスマホを開き、適当な発言で適当に話題に乗っかって眠ることを責めるのは難しい。彼の発言は所詮その場でのノリであって粘着でもガチなアンチ行為でもない。「あなたの無責任な発言で傷ついている人がいます!」と責め立てるほど悪辣じゃないし、わざわざそんな自治をする方が異常でしょう。だって、そんな社会人は無限にいる。彼らからすれば、一日中ネットに張り付いて「正しい」議論を繰り広げるクリエイターや配信者様たちのほうが暇人なわけだ。僕らがどれだけサブカルチャーを盛り上げたとて、他人の家に電気は供給されないのだ。ダイレクトに誰かの役に立っている人間はすごい。


 もちろん、僕らにも言い分はある。サブカルチャーが、趣味の世界があるからこそ、人は生きる喜びが増す。そういった寄り道がなければ、人は労働と食事と睡眠を繰り返す機械になってしまう。僕が文章を書いたりゲームを作ったりすることで、確実に救われる人間もいる。が、やっぱり彼らからすれば「ネットで遊んでお金もらっている人」に見えるでしょう。


 これも答えがでない問題だ。僕の義父も、Twitterアカウントを見に行ったら年中政治の批判をRTして何かと戦っていた。すごいショックだった。そんなことしている暇があったら、再婚したての僕の母をデートにでも連れて行ってくれと思った。が、やっぱり彼にとってネットで政治家をサンドバッグにして気持ちよくなる行為は大事な支えなのでしょう。義父が週5で美容師として他人の役に立っていることも事実だし。母の暮らしを支えている。


 まあ、僕は絶対にそうなりたくないですけどね。

 そうして社会や労働に魂を売って、己を穢すくらいなら、黙って森で暮らしますよ。

【バンダイ スパイダークモノス コンプリートセット】


キングオージャーの追加戦士、スパイダークモノスに変身できるおもちゃセット。各部に埋め込まれた蜘蛛の意匠がカッコいい。この毒々しい色の怪しげな魅力はキッズたちもイチコロでしょう。かく言う僕もすでにスパイダークモノスにメロメロ。

蜘蛛と巣を続けて名前にすることで「ダーク」という単語が入る……シンプルながらなんとワクワクする発想なんだ。やってくれたなキングオージャー……

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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