第29回/言及するだけアカウントが腐る

文字数 1,341文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 「やめろ! 言及するだけ、あなたのアカウントは安っぽくなるぞ!」と注意したくなるものの、そもそも他人に警告することすら「言及」であるわけで、そもそも僕がタイムラインでよく見るくらいの関係の人間にわざわざリプライする必要もない。


 が、やっぱり思ってしまう。毎日毎日SNSには不穏なネットニュースや誰かのゴシップが流れてくる。ぼけっとネットを眺めていると、不思議とそれらに対して一言いいたくなる気持ちは大いにわかる。基本的に相手は言い返してこないのだから、さくっと遠くから一言申してストレス解消する息抜きだって、この過酷な現代には必要なことかもしれない。


 けれども! けれども、やっぱり「あっこのひとまたわざわざ無関係のことに言及している!」って思ってしまう。たいていの言及は上から目線だ。だいたいやらかした人間を揶揄したりもっと直接的に罵倒したりの行為ですからね。ネットの人気者が炎上するたび「こういうインフルエンサーを持ち上げてきたバカたちもどうかと思うね……」なんて呟いちゃえば、一気に特定の層よりも立場が上になることができますから。そこへちょっと捻った毒気あるユーモアさえ一摘みすれば完璧。流行りのコンテンツへ「ブラック・ジョーク」までかませちゃう俺の誕生である。


 わかる、わかるよ。楽だもの。簡単に本来なら決して手の届かない相手へ一太刀入れることができるのだから。うまくツイートが拡散されたらフォロワーも増えるし、同士も集まってくる。だけど、だからこそやめておいて方がいい。ダーク・ツイートは、その一瞬だけのドーピングにすぎない。「このアカウント、ウェットに富んだ批判や冷笑ができるのね」と褒められたとて、それは罠だ。あなたのアカウントを通してスッキリしようとする悪者たちによる巧妙な策略だ。


 これはもう仕方ない。SNSを眺めていればいるほど、なにか事件に対して一言物申したくなってくる。自分も参加したくなる。


 が、確実に……確実にそうすることで黒く染まる、腐っていく「なにか」がある。本来、人間なんて自分の手の届く範囲のことだけ気にして生きていればいいのだ。画面越しの知らない誰かの失態をあざ笑うツイートを投稿するよりも、パチスロに負けて泣いている友達に「すき家くらいなら奢ってやるよ」と連絡するほうが1000倍良いんだ。


 関係のないことに言及して気持ちよくなりそうになったら、それはもう「言及」の味を脳みそが覚えちゃった証拠です。その瞬間、スマホを閉じて5分くらい寝転がりましょう。きっと、画面の向こうの喧騒なんてどうでもよくなってくるはずだ。安い言及なんかで魂を穢してはいけない。人はもっと人間として戦うべき瞬間がやってくるのだから。

【アリスのフィギュアやドール】


『不思議の国のアリス』をモチーフにした立体物のコーナー。オタクはどうあっても一度はアリスに憧れてしまう。けっして逆らえない純真無垢な少女の煌めき。なんてズルい存在なんだ。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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