第31回／ゲームの本質

　最近、ゲームボーイアドバンスを改造したのです。シェル（外観）を入れ替えて液晶をIPS液晶なる、高画質かつライトが明るいものへ取り替えました。

　アドバンス、一瞬で起動して即ゲームで遊べることがいいですよね。最近のお気に入りは『もじぴったん』です。単語を繋ぎ合わせて連鎖させたりマスを埋めたりしていくゲームですね。もじぴったん、適度な脳の体操とゲームの快感が気持ちよくて素晴らしい。アドバンスなら『リズム天国』『メイドインワリオ』と同じく、単純な操作の連続でさくさく進んでいくゲーム性が直感的な「快楽」に直結しており非常にゲームらしい。

　ゲームって究極的に「気持ちいい」が最重要だと思う。アクションなりシューティングなり、もちろん時には難易度によってはクリアできなくて、不快・悔しい気持ちにされることもありますが、それはその先にある強敵を倒した快感のためのものですから。敵が強くて難しいは許せても、シンプルに操作性が悪い、システムが複雑などはマイナス点でしかないじゃないですか。ボタンを押すとなんらかのアクションがスムーズに行われ、そのアクションによって状況が変化していくのが面白い。どこまでいっても「赤子が押したら愉快な音が鳴るおもちゃを連打して笑う」原始的な喜びの延長線ですね。

　これはアクションでなくても、ストーリーの進行や数字の増減、キャラクターの好感度によっても調整できます。たとえば拙作『NEEDY GIRL OVERDOSE』なら、超てんちゃんが配信を行なうことで、現実ではありえない数字のど派手な増減、少しずつ見えてくる彼女の未来、「ピ」であるプレイヤーへのあめちゃんからの反応の変化などが「ご褒美」ですね。テキストが主体のゲームであれば、ストーリー上の負荷は必ずしも不快でなく、そのドキドキや刺激、悲しみが「ご褒美」になったりもする。それが面白い。ただ、どこをクリックしたらどう動くかなどの「操作性」は絶対に快適であればあるほどいいので、そこはプログラマーのとりいさんがめちゃくちゃ頑張ってくれました。

　ちょっぴり脱線しましたが、要は（良い）ゲームはプレイヤーを気持ちよくさせてくれる・発見を与えてくれるものであり、そういった意味では先述したゲームボーイアドバンスの３本『もじぴったん』『メイドインワリオ』『リズム天国』などは素晴らしい。ゲームを始めればすぐにでも操作が始まり（これがレトロ携帯ゲーム機の良さだ）、ポップな音楽に合わせてステージをクリアしていくごとにプレイヤーの操作感度も高まり、だんだんと複雑なアクションも自然とこなせるようになる。ボタンを押すと結果が即現れる感動に、自身の操作テクニックの成長も実感できる。これにストーリー性や壮大なマップ、もっともっと複雑ながら理解すると大きな快感になるシステムを足していくと、大作ゲームになりますね。

　大作ゲームは大作だからこその体験が当然あるとして、ゲームの本質は「触っていて気持ちいい」ことであるのだから、アドバンスを起動してさくっと脳と指の体操を行い、それに飽きるまでの30〜一時間くらいは、操作に集中しているだけで雑念をすべて忘れられるのだから、もはや禅に近い。大作ゲームは複雑な思考の要求とストーリーでいろんなことが頭に入ってきますから。だから面白いんだけれども。もっとインスタントに現実逃避したい時もありますからね。もじぴったんなんかは、アクションと違って単語を連想する言語能力を活かしているような気になれて、それがまた脳を適度に気持ちよくさせてくるんですよね。いいゲームだ。

　もし、僕がニディガ以降もゲームを作るとて、こんな「単純操作が気持ちいい」というゲームの本質に近いものは無理だ。書きたいテキストから逆算して設計せざるを得ない以上、」文字を読む＝ゲーム的にはアクションを止められる無駄な時間」が挟まるのだから、アクションとはどうしても相性が悪いし、それで他人を気持ちよくさせられるようなお膳立てができるような人間じゃない。『リズム天国』をプロデュースした「つんく♂」氏は「いわゆる音ゲーって目押しだけど、本当にリズムに乗るゲームを作りたい（意訳）」という想いから企画した（これすごい話ですよね）そうで、「リズム」や「アクション」は自分には理解できる領域にない。

　何十時間も遊べて、そのうえでクリアにたどり着いた爽快感や満足感も貴重な体験ですが、そのうらで「現実逃避」のための単純操作を研究し続けているチームもある。久々にアドバンスを触ったことで、後者の気持ちよさも再確認してしみじみ童心に耽る夏なのでした。