第41回/超えちゃいけないライン
文字数 2,237文字
頭の悪い工業高校に入学したので、周りの生徒もヤンキーやそれっぽいタイプのやつが大半でした。あとはオタク。
それで、オタクたちの中でも、環境に感化されてだんだん不良っぽくなる人もいるんですね。それはまぁ別に、そうやって痛くなっちゃうのも、道を踏み外すのもまた青春なので良いのですが、ここで「越えちゃいけないライン」が存在するのだけは、留意しておかなければならない。
クラスに一人、元オタクからヤンキーに転身した男がいたのですね。髪も若干茶髪にして、タバコを吸うようにもなりました。で、彼が越えたラインはタトゥー。なんと、調子に乗っていつの間にか指に大きく十字架の入れ墨をいれちゃったんです。
すると何が起きるかなんですが、ダサいとかダサくないかは二の次として、就職できなくなるんです。生徒の9割の進路が就職を選ぶ工業高校では、まともな仕事に就けないのは非常に痛手。
それでまぁ、覚悟を決めてタトゥーが武器になるようなアウトローな道を歩めるといいのですけど、彼は元オタクで、正直顔に迫力があるタイプではない。こうなると、みんな「在学中は不良ぶりつつ、なんだかんだ卒業後はちゃんと働くやつ」になっていく中で、「ただ就職できないだけのオタク」が誕生。それからどうなったかは分かりませんが、とにかく悲惨な事件でした。
やんちゃなヤンキーたちも、本能的に「就職に響くのはヤバい」と理解していたのですね。今日は、そういう「越えちゃいけないライン」の話をします。
世の中にはいろんなラインがあります。
そして、当然引かれたラインのギリギリを狙うからこその興奮とか、面白さとか、熱さとかがあるわけですが、もちろん見誤ると先程紹介したオタクのような事態になる。
判断材料は、「経験」と「人間関係」なんでしょうね。
例えば、高校で不良レビューした人間はともかく、工業高校には中学の頃から荒れに荒れていたヤンキーたちが盛りだくさん。いや、小学生時点で既に暴れていたっておかしくない。そうして全く勉強しなかった人間たちが、こぞって工業高校という鉛筆を転がせば入れる学校へ集まる。
彼らは、既に何度も指導された経験から、これ以上を踏み越えると、「怒られるだけじゃなくなる」ラインを学びます。
それは、親を呼び出されるとか、少年院送りにされるとか、先輩たちにリンチされるとか、いろいろです。先生の怒り具合を表情から察し、これは「ヤンチャ坊主の火遊び」程度ではないぞと理解していく。
そしてなにより、同じはみ出しモノ同士で友だちになる。いずれは友達の兄や先輩がでてきて、不良の先人が登場。そういった先輩たちが、就職なり退学なりをした際の身の振り方を見て、自分も将来はこう生きていこうと学ぶのですね。
過去の例から、いざとなれば透明ピアスや絆創膏で言い訳できる「ピアス」はアリでも、面接時や身体検査で隠せないタトゥーはダメであるような、暗黙の了解を知る。その上で、感情のまま行動しちゃった時のために生きていけるよう、強さを身につける。そうして、ラインのギリギリ、または越えた際の対応を考慮して生存戦略を立てていく。
この「経験」や「人間関係」って、大人になればなるほど掴みにくくなるものですから、たまにインターネット上の冷笑とか誹謗中傷が「ネタで済まされないライン」を越えたりする。または、ラインのスレスレで遊びすぎて自然と人が距離をおいていくこともある。悪いこと、悪目立ちするということは、簡単に人を集める分、そういったリスクがつきまとう諸刃の剣。
だから悪いことはやめようね! なんて、ありきたりな説教や綺麗事も言いたくない。ただ、タトゥーを入れたオタクや、度を越えた誹謗中傷で晒されるオタクだって、軽い気持ちでやったに過ぎないわけです。
「なんで自分だけ!」と思いつつも、よく観察すると、ヤンキーにはヤンキーなりのルールが存在し、生涯現役だと意気込む気合の入ったヤツ以外にタトゥーまでは入れなかったりする。このへんの塩梅って、明確にされないことが多いから難しいんだ。
「適当で大丈夫だよ」と言われた際に、僕らは「適当」の度合いなんて計れないでしょう。そこで油断していると、思いも寄らない事態に襲われる。社会や人間関係は、つねにその危険性を孕んでいる。
「なんで今怒っているか分かるか?」と訊かれたとき、実はラインのギリギリを反復横とびしていたのが原因なこともある。それが本人は「馴れ合い」や「愛嬌」の範疇だと認識している場合もありますよね。これは、とても悲しい。
ということを、何度かやらかして生きていきながら学んできたので、「と言われても結局具体的にどうしろってんだよ!」とお思いでしょうが、もしかしたらこの文章で命を拾う方も居るのではと書いてみた次第です。
世の中って、見えないルールがいっぱいで非常に怖いんです。インターネットも、また同じく。
【ねんどろいど ちぃ】
ちぃ覚えた。前回「美少女キャラクターへの興味が薄くなってきた」と言いつつ、子供の頃に好きだった美少女が立体化すると、こうしてすぐに釣られてしまい、自分のどうしようもない懐古趣味のジジイ感に苦しくなる。