第2回/深夜のインターネットが好きなのです

文字数 1,610文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 深夜のインターネットが好きなのです。


 昼〜夜は社会の時間。いろんな企業やクリエイターが新情報や創作物を発信し、マスメディアはアクセス数のために刺激的なニュースを投稿する。人間は、それらをコンテンツとして受け取り一喜一憂して過ごす。こうして社会が回っていく。


 深夜になって世界から人が減ると、インターネットからも「情報」が引いていく。翌日の人が多い時間に発信するため、社会の機能が眠りにつくのだ。ここからが僕らの時間が始まります。ジョジョ風に言うと「オレだけの時間だぜ」。


 深夜アニメの放送も終了した、草木も眠る丑三つ時以降のタイムライン。そこには昼夜逆転していたり、不眠で眠れない人たちが跋扈する闇の世界。


 前述した通り、昼〜夜は情報がたくさんあるので話題に事欠かない。が、深夜となると特に共通の話題も少なくなること、そして何より月が優しく照らしてくれることから、次第に人々は夜にあてられ「感情」や「過去」を話すようになるのですね。


 僅かに傷が癒え始めた失恋の思い出。有名クリエイターでもフリーランスとして生きていくことへの漠然とした不安。アルコールや睡眠薬によってハイになったフォロワーのウザ絡み。夜が更けていくにつれ、どんどん「人間らしさ」が剥き出しになってくる。僕は、毎晩これらの「想い」を観測し続けております。


 こうして流れてくる、暑苦しい太陽の下ではけっして見せない本心や弱音たち。それらをそっと「いいね」していると、なんだか絡んだことのないフォロワーたちとも通じ合えた気がしてくる。極まったクリエイターになればなるほど、日常的な発言が少なくなる傾向にあるため(リスクも多いし)、こうして深夜に出てきた「本質」を「観る」ことで、初めてその人と真の意味で「相互」になれた気持ちを得られるのだ。

 人間は、弱さまで含めて見せ合わないと距離感が縮まらない。飼い犬が大好きな主人へ無防備な腹を見せつけるように、弱点や過去を通して「信頼」を得る。人口の多い時間では見せられない自身の闇や病みをボトルに詰めて、深夜のタイムラインという真っ暗な海に放流する。それを僕ら不眠症のオタクがおもむろに拾い上げる。所詮は、「いいね」を押すだけのアクションだけれども、誰かが自分を「観て」くれたこと。そして、自身の弱みまで「いいね」と思ってくれた事実で、一瞬でも「ヌクモリティ」のようなものが発生していると信じているのです。このあまりにネット然とした感覚は、「ヌクモリティ」としか言い表しようがない。


 そんな深夜だけの秘密のパーティ、墓場の運動会は朝陽とともに終わりを迎える。社会が目覚め始めるにつれ、人々は深夜テンションの投稿を削除する。ふとネットの海に流してしまった本音は、同じ時間を共有した夜更かしバカだけの秘密なのです。


 こうして朝とともに僕らは眠りにつき、また次の深夜に秘密の集会を繰り返す。実は、あなたがすやすや眠っている間にも、インターネットでは静かなお祭りで大盛り上がりかもしれませんよ。


 もし、あなたが眠れなくて、深夜のインターネットに迷い込んでしまった時は、人の多い場所ではなかなか言えない秘めた想いを、そっと呟いてみてください。旅は道連れ、世は情け。僕らは迷い人にもそっと優しく「いいね」を押してあげる筈ですから。

【大槍先生の巨大な絵】

若い頃に借金して購入した、敬愛する大槍先生の絵。友達とルームシェアしていて家賃が3万だったのに対し、13万円もだして買いました。家賃4ヶ月分。衣食住を失ってでも手にしたかった圧倒的な「美」がここにある。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。
デザイン/濱祐斗(濱祐斗デザイン事務所)

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