第53回/前提の共有

文字数 2,077文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 初めて海外へ行ってきた……というか、この文章は現在進行形で帰りの飛行機にて執筆している。執筆といってもスマホのメモ帳へぽちぽち文字を入力しているだけですけどね。機内モードにしているからちょうど暇なのです。


 さて、海外でのイベント登壇についてはこの連載の領分では無いので大胆にカットします。気になった方は僕のアカウントでも参照ください。それより海外で感じたことの壁打ちをしよう。


 まず、海外を旅することでの難易度の高さは、ほとんど「言語の違い」に依存するでしょう。初日は独りで歩いていたので、街の人々と話が全く通じない。耳から入ってくる情報がほとんど役に立たない。逆に、二日目以降は通訳さんが居るので何もかも安心であった。文化の違いによる常識の差異はあるものの、言葉さえ通じればどうにかなるものだ。


 つまり、人間は言語を通して意思や常識を共有し「前提」を築いて安心している。まずは挨拶を交わして「敵意はない」前提を作ることができるし、続いて自己紹介によって自分はどういう立ち位置の何者であるかを共有し、相手に理解をしてもらう。こういった会話を無意識に何度も何度も繰り返し、信頼を得る。言語が通じないとこの大前提が崩壊するので、ひたすら不安に陥る。


 逆に言えば、国内でもこの「前提」を意識して喋るといいかもしれない。


 「この人は急に暴れはしないだろう」「こういった話題に興味を持つだろう」と相互に確かめ合う。初対面の場合は、それらの共有をスムーズに行うと良い。作家の場合は代表作があると死ぬほど楽になる。「こんな作品をつくる/愛する人間です」といった情報はイメージの共有が一瞬で済むのだ。名刺代わりだね。


 むしろ「自分はこういった場合に弱いので避けて欲しい」といった情報も早めに共有しておくと便利でしょう。繊細な相手の触れちゃいけない、させちゃいけない部分が見えないことも不安へ繋がるため、勇気を持って申告しておく。たとえば「僕は絶対に寝坊するので朝に会うことはできません」など。その前提が共有と共感さえされたら、あとは発生したルール内で調整ができる。ゲームに禁止カードがあったとて、「なんで使えないんだよ!」と怒っても無意味だ。ルールが設定されれば動きようはある。


 友人とは何年も、運が良ければ10年以上も、あらゆる「前提」が蓄積されているので安心するのだ。「この映画を観に行くと喜ぶだろう」「これくらい手伝ってもらっても怒らないだろう」「ある程度のツッコミは許容するはず」など。人間だから、時折暗黙の了解を破って喧嘩することもあるけど。強いところも弱いところも知っているので動き易い。綺麗な言い方をすれば信頼が置ける。


 コミュニケーションの基本は「安心」を与えるかもしれない。相手が何者かわからぬ状況において、最低限の常識を共有できるという意味で、学歴や職歴を開示するのは分かりやすい。良い大学に入る、大手企業に就職することは、初対面の相手への信頼が比較的楽に手に入る。あくまで一般的にはですけどね。それを名刺にして交換することで、お互いの常識のレベルを測る。これが社会的な交流。


 そういった社会的な常識人は、むしろ足枷になると判断して敬遠する者もいる。まあ僕もまともな人間とできる限り話さず済むよう配慮してもらっている。「前提」が共有できないのです。「ちゃんと朝に起きれる」「間違えずに電車に乗れる」「請求書をすぐに送れる」などの常識を前提で話されると、いやそれが無理なんだよな……と自分がいかに面倒くさい人間かを説明するパートが入る。そこまでして、わざわざ交流する必要は無い。肝心な時に齟齬が発生しないよう、ルールが違う場合はそっと離れることもあるでしょう。


 冒頭の話からあらぬ方向へ話が飛んでいった。いま搭乗している飛行機のように。


 書き終わったので、空港に到着次第、ネットに接続してこの原稿を編集さんへ送る。0時に載る原稿が21時に送られる。非常に申し訳ない……が、実は編集さんも何度も当コラムの更新を忘れて遅れることもある。互いに「ダメな時はダメなんだから無理しない範囲で適当に」という前提が共有されているので、そこはゆるくやれるのだ! と、勝手に開き直っておりますが、本当に申し訳ないです。来週からは余裕を持って提出しますので……。


(※担当私信:すみません。いつもありがとうございます)

【METAL BUILD サーバイン】


ダンバインのOVAに登場したレア機体。最近はスパロボでの登場回数が増えたので知名度も上がったかも。はっきり言って原作では全然アクションしないので、今回の立体物のポーズの殆どは「こういう動きをしてほしいな」というファンの願望。しかし、デザインがあまりに洗練されすぎていて、まるで宝石のようです。

来週も月曜深夜に更新予定です。おやすみなさい。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色